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社内レポート

2013年9月11日(水)

アカマイ ─誰も知らないインターネット上最大の会社

インフラ企業から見るネット業界の行方

世界87カ国に13万7000台のサーバーを配備し、CDN(Content Delivery Network)市場でトップシェアを誇るAkamai Technologies(アカマイ・テクノロジーズ、以下、Akamai)。
CEOトム・レイトンは新書『知の逆転』で、自社について「誰も知らないインターネット上最大の会社」と表現しています。

MITの応用数学科の教授でもあるレイトン氏が率いるAkamaiとはどんな会社なのか?「誰も知らないインターネット上最大の会社」について見ていくことにしましょう。

記事INDEX

「誰も知らないインターネット上最大の会社」

CEO自らが自社を「誰も知らないインターネット上最大の会社」と評するのはなぜか?

それは、Akamaiが展開しているのが法人向けビジネスだからといえるでしょう。一言で言ってしまえば、Akamaiは、法人顧客がWebコンテンツを一般ユーザーに提供する手助けをしているのです。

その顧客の顔ぶれは、「インターネット上最大」の名にふさわしく壮観なものです。日本の有価証券報告書にあたる10-Kでその"顧客"が挙げられています。

アドビ、アップル、ドルチェ&ガッバーナ、日立、マイクロソフト、NFL、といった一般企業だけでなく、アメリカ空軍、アメリカ国防総省といった政府機関まで……

これら世界的企業に対し、一般ユーザーも世界中に存在しています。一般ユーザーが世界中のどこからでも快適にネット接続できるよう、Akamaiは87カ国、13万7000台のサーバーによりCDN(Content Delivery Network)を構築、負荷分散サービスを提供しているのです。

Akamaiの業績はどうなっているのか?

さて、Akamaiの業績を見ていくことにしましょう。下記グラフはここ10年の同社の売上、営業利益の推移です。

98年にレイトン氏らMIT出身のメンバーによって設立されたAkamaiは、2004年に初の営業黒字を計上。その後も業績は右肩上がり、収益性の面でも営業利益率20%超え、ROE10%弱と好調な数字を出しています。

しかし、気がかりなのは、売上の伸びに比べて利益の伸びが劣っていることです。ということで、同業他社の売上と比較してみることにしました。

Akamai以外の各社は停滞していることがわかります。これは、筆者にとって意外でした。Akamaiほどではないにしろ、少なくとも成長しているだろうと想定していたからです。また、営業利益についても競合他社は赤字・黒字を行ったり来たりで、CDN業者だけを比較するとAkamaiの一人勝ち、といってもよさそうです。

とすると、Akamaiの収益性悪化の要因はなんなのか? それは、CDN事業者「以外」との競争が考えられます。同社は、投資家向けプレゼン資料で、CDN事業の競合にDIY、CDN事業者、キャリア(資料掲載順)を挙げています。DIYはコンテンツ配信事業者が同社に頼ることなく、自前でネットワークを構築してしまうというものです。

Akamaiの財政状態は?

B/Sを実際に見る前には、まず対象となる企業のビジネスをイメージするのがよいでしょう。

CDN構築のために、世界中にサーバーを持っているのだから、きっと有形固定資産が大きいはず。サーバーは自前だとして、データセンターはどうなっているんだろう? 法人ビジネスを行っていることから、売上債権が載っているはず。利益が順調に積み上がっているから、きっと自己資本も厚いんだろうな。

Akamaiの場合だとこんな感じでしょうか。

それでは実際にAkamaiのB/Sを見ていくことにしましょう。

B/Sを見るときのポイントは、細部にとらわれるのではなく、大きい部分に注目することです。そして、当初のイメージとのすり合わせを行っていきます。

個人的に気になったのは次の3点です。


1.「玉に瑕」な株主資本
黄色の株主資本がB/Sの右側、調達サイドのほとんどを占めています。このように、自己資本比率90%超、と超堅固に見えるAkamaiの株主資本ですが、その中身を見ると違った風景が見えてきます。というのも、株主資本23.4億ドルの内訳をみると、株主からの出資分(Paid-In Capital)がプラス51.9億ドルであるのに対し、Akamaiが積み上げた利益の額(Retained Earnings)はマイナス22.2億ドルになっていることがわかります。

これは、Akamaiが最近の好業績を吹き飛ばすほどの損失を過去に出していたという証拠です。AkamaiはIPO後に、動画配信の会社を株式交換により20億ドル超で買収したのですが、そのわずか一年後に、19億ドルもの減損処理をしました(当然、株価も下がりました)。現在のAkamaiの地位がこの買収によって築かれたといってもいいのでしょうが、当時の株主は今も複雑な心情ではないでしょうか。


2.意外に小さい有形固定資産:サーバーは自前、データセンターは借り物
有形固定資産は当初のイメージ通りある程度の大きさがありますが、CDNというインフラ企業にしては少ない水準にも思えます。これは、サーバーは自前ですが、データセンターは自社保有していないことによるものです。仮にデータセンターまでも自社で持とうと思ったら、B/Sの右側、調達サイドの形も変わっていたことでしょう。

なお、冒頭で紹介した13万7000台というサーバー台数の数字は、直近のAkamaiのWebサイトから引用したものです。2012年末は12万5000台となっており、ここ数年は年間2万台のペースで増加を続けている様子です(Akamaiは毎年、10-Kで自社のサーバー台数を記載しています)。

自社保有のサーバー台数を外部に公表しているというのはかなり珍しいケースです。サーバー台数を公表するとコスト構造が透けて見えてしまうから、一般的には公表されません。Googleなど他のネット企業のサーバー台数がよく話題に登りますが、実際のところはナゾなのはこういうわけなのです。それをドヤ顔で開示しているAkamai……。よっぽど技術力に自信があるのでしょうか?


3.意外にも大きい無形固定資産:積極買収の中身は?
B/Sの運用サイドで最大の項目がこの無形固定資産、そしてその9割近くが買収によって発生した「のれん」です。また、こののれんは直近の1年間で1.6倍になっており、これはAkamaiが2012年に買収を行ったことを意味しています。

さて、Akamaiは何を買ったのか? こののれんの中身については次の項で紹介します。

Akamaiはどこへ向かうのか?

買収の中身を知ることでその企業がどこへ進もうとしているのかがわかります。

2012年、Akamaiは3.4億ドル超をかけ、4社(Blaze、Cotendo、Verivue、FastSoft)の買収を実施、近年にない大きな動きを見せました。

この中でも特筆すべきは2.7億ドル超をかけ行われたCotendoの買収です。Cotendoは、2009年設立のクラウド技術・モバイル最適化に強みを持つスタートアップ企業です。

モバイル端末の普及により、インターネットの領域も拡大しています。そうすると、従来PCを想定していればよかった「Webのパフォーマンス」の定義も異なってきます。Cotendoの買収により、端末、回線の状況に応じ最適化されたコンテンツを配信する技術をAkamaiは獲得したことになります。また、同社は潜在的な競合を取り込んだともいえるでしょう。

「誰も知らないインターネット上最大の会社」(再)

2013年1月、レイトン氏がCEOに就任し、Akamaiは新たなステージに向かおうとしているようです。

モバイル端末の普及、コンテンツのリッチ化……。これらを下支えしているのは、「誰も知らないインターネット上最大の会社」Akamaiなどのネット上のインフラ企業です。

個別のコンテンツ配信企業と異なり、華々しく動く業界ではありませんが、ネットビジネスの地殻ともいえるAkamai、長期的な視野でウォッチしていく価値はあると思います。




本レポートは、企業業績や財務状況を直観的に判断できるビジュアライズレポートが個人投資家を中心に高い評価を受けている当社グループ広報・IR部の丸山(元、銘柄分析サービスの(株)シェアーズ アナリスト)が、独自の視点で企業・業界分析しているレポートです。


2013.09.03



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