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社内レポート

技術ブログ

2012年3月21日(水)

アメリカ発祥の新しいマーケティングリサーチ手法「MROC(エムロック)」 Vol.1

MROCの概要と分類、海外の事例について

インターネットの普及を背景に、従来の対面型のアンケートやインタビューとは異なるオンライン型のリサーチ手法が開発されるなか、特定のテーマに関心を持っている人やブランドユーザーだけを集めてクローズドなオンラインコミュニティを構築するMROC(エムロック:Market/Marketing Research Online Community)に注目が集まっている。

コミュニティ内で共通の興味関心を持つ人同士が一定期間にわたって会話するMROCは、従来のリサーチでは気づけなかったインサイト(発見)にたどり着くことも可能。既に米国では有効な手法として認知され、日本でも少しずつ広まっているこの新しいリサーチ手法について3回で解説するのが、新シリーズ「新しいマーケティングリサーチ手法 "MROC(エムロック)"」。

第1回は、MROCの概要や分類、海外の事例についてレポートいたします。

※このレポートは、GMOジャパンマーケットインテリジェンス株式会社とGMOリサーチ株式会社の共同研究です。

記事INDEX

MROC(エムロック)が生まれてきた背景

従来マーケティングリサーチの主な手法としては、定量調査(俗に言うアンケート)、定性調査(俗に言うインタビュー)がありました。これら2つは、調査方法は異なるものの調査員が調査対象者に対して、一対一でアスキング(尋ねる)するという点では同じものだと言え、調査設計を超えたインサイト(発見)を得られることは難しく、調査員によってバイアスが生じるという課題も抱えていました。

そうしたなか、2000年頃からインターネットが普及して、ソーシャルメディアが登場したことを背景に、消費者間で双方向の情報のやり取りが行われるようになりました。リサーチ業界では、こうした調査対象者同士のやり取りをマーケティングリサーチに取り込むことで、旧来調査の課題が克服できるのではという期待が高まり、New MR(新しいマーケティングリサーチ)という潮流が生まれています。この流れには、これまでこのレポートで紹介した「ソーシャルメディア調査」や、「eエスノグラフィ(観察調査)」「予測市場」などがあり、今回のテーマであるMROCもその一つです。

また、オンラインアクセスパネルを利用したオンライン定量調査が1990年代後半以降急速に広まったことで、旧来型の調査におけるランダムサンプリングの重要性という前提が崩れてしまったことも、New MR(新しいマーケティングリサーチ手法)が広がった理由として挙げられます。

MROC(エムロック)とは何か?

(1)調査手法MROCの概念
 New MRの一つであるMROCとは、Market/Marketing Research Online Communityの略称で、「マーケット/マーケティングリサーチを目的としてオンライン上に設けた、ある一定期間集められた人々の集まり(コミュニティ)を意味します。MROCとはこうしたオンラインコミュニティの総称で、実際には「◯◯ファンサイト」「マイ◯◯」など個別の名称で呼ばれることが多いようです。

(2)MROC誕生の経緯
MROC の先駆けとなったのは、米国のCommunispaceという調査会社が2000年頃から提供を開始したリサーチコミュニティだと言われています。その後、2007~8年頃に米国内のブランデッドコミュニティ(ブランド主導でつくったユーザーのコミュニティ)で大きな成功が伝えられるようになって注目されるようになりました。日本でも、ここ1~2年でその存在が急速に広まりましたが、ユーザーの交流を目的としたものが多く、マーケティングを目的にしたMROCへの取組みはまだまだ手探り段階だと言えます。

(3)MROCの優位点
旧来の調査手法と比較したMROCの優位点は以下になります。

●調査主体(リサーチャーやモデレーター)と調査対象者との一対一のやり取りではなく、調査対象者同士の双方向のやり取りが行われるため、調査設計にはない想定外のインサイトが発見される可能性がある。

●オンライン調査のため、会場に調査対象者を招いてインタビューや座談会などを行う従来型のグループインタビューと比較して以下の特徴がある。

・(言語の問題が解決できるなら)世界中から調査対象者が集められる
・調査対象者が時間を合わせて同時にログインする必要がないので、負担が軽い
・忙しくて時間のとれない社会的地位の高い人にも参加してもらえる
・実際に家電などの機器の使用状況を動画で撮影して投稿してもらうなど、エスノグラフィ的な調査が簡単に可能
・(旧来手法に比べて)費用も安価で調査分析・集計も早い

(4)MROCの分類
MROCの形態は、「コミュニティの設置期間」「コミュニティの参加自由度」で大きく3つに分類されます。また、コミュニティに対する参加者のエンゲージメント(結びつき)が導出結果を大きく左右するため、「コミュニティの成り立ち方」によってMROCの性質が大きく変化すると言えるでしょう。

・課題解決型MROC(短期・クローズ)
右上のゾーンで「特定の課題解決」のために設置されるMROCです。企業とのエンゲージメントが強くないため、旧来調査同様の細かい設計・コントロールが必要となっています。

・常置型交流重視MROC(長期・オープン)
左下のゾーンで、長期間設置され、多くの人々が匿名でコミュニティに出入りする交流重視型のMROCです。メンバーの紹介で多くの人が参加できるためコミュニティの拡大も期待でき、インセンティブが発生しないため安価に設置できます。

・常置型インサイト重視MROC(長期・クローズ)
右下のゾーンで、いわゆるブランデッドコミュニティと言われる形態が多いMROCです。ブランドと参加者が1年間といった長期間にわたってエンゲージメントを形成しながらインサイトを得るために活用されます。この常置型インサイト重視(長期・クローズ)がこれからのMROCのめざす形態だと言われています。

MROCの成功事例

海外で成功しているMROCのよく知られた事例として、以下の2つが挙げられます。

■easy JET http://www.easyjet.com/
イージージェットは1995年に設立されたロンドン・イートン空港を拠点とする格安航空会社。予約はインターネット・電話のみ、機内食の有料化など徹底して効率化を推し進め、ヨーロッパ有数の航空会社に成長しています。

同社は英国のリサーチ会社であるバーチャル・サーベイがモデレーターとしてサポートするクローズドコミュニティを2008年に開設。同コミュニティは過去12カ月に同航空会社を利用した顧客のうち2000人から構成され、定期的にメンバーを更新しながら継続されています。メンバーはモデレーターから毎週メールでトピックを受け取り、月間賞に選ばれるとペアチケットを受け取れます。

コミュニティの活用を通じて、同社は「広告」「価格」「航空ネットワーク整備」「ウェブサイト」といった調査領域で、これまでより安価に短期間で調査結果を得ることでき、迅速な経営判断を行うことに成功しています。


■Starbucks http://www.starbucks.co.jp/
スターバックスは1971年に米国で開業した世界規模に展開するコーヒーチェーン店。スターバックスが運営するブランデッドコミュニティである"MyStarbucksIdea"では、顧客が同社に対するアイデアを提案し、同社より投票やコメントを受ける場となっています。"MyStarbucksIdea"にアイデアやコメントを投稿するためにはコミュニティに参加する必要があり、コミュニティ内では活発なアイデア提供が行われています。同社は、コミュニティ開設後6ヶ月で75,000件のアイデアが寄せられ、2009年3月にはメンバー数が150,000人になったと発表しています。

※出典:レイ・ポインター著,GMOジャパンマーケットインテリジェンス訳,GMOリサーチ監修『オンライン・ソーシャルメディア・リサーチ・ハンドブック』東洋経済出版社,2011より

まとめ

一般にメーカーは、卸業者や小売店向けに製品を供給しているため、消費者と直接接触する機会はほとんどありません。そのため、マーケティングリサーチという手法で消費者にリーチしていますが、実際に、どのような人が製品を購入しているのかを明確に把握できない状況にいます。しかし、インターネット上のオンラインコミュニティであるMROCの登場によって、今後メーカーは、長期間にわたって製品に対する消費者の声を直接聞けるようになるので、それらを生かした広告やプロモーション、製品開発などが可能になるのではないかと思います。

次回はGMOリサーチが開発したサービスで、MROCに適した参加者をリクルーティングする仕組み、オンライン・リサーチ・コミュニティ・リクルーティングbyGMO)を紹介したいと思います。