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社内レポート

2012年3月7日(水)

スマートフォン市場で勝ち残るサービスを作る Vol.2

スマートフォン市場において、ユーザーに使ってもらえるサービスを作るためには、必ず押さえておくべき項目がいくつかある。今回はその中でも、「ユーザーを待たせない」という点にフォーカスを当てる。

GMOゲームセンター株式会社で取締役副社長を務める木村貢大による、GMO最新ネット業界レポートの新シリーズ「スマートフォン編」。長年にわたり携帯電話向けミドルウェアやサービスの開発に従事してきた木村が、独自の視点からスマートフォン市場で勝ち残るためのポイントを解説する。

スマートフォン市場において、ユーザーに使ってもらえるサービスを作るためには、必ず押さえておくべき項目がいくつかある。今回はその中でも、「ユーザーを待たせない」という点にフォーカスを当てる。

記事INDEX

「待ち時間」はユーザーにとってのコスト

前編の最後に、「これからのスマートフォンのユーザーはサービスを使うための努力をしてくれるとは限らない」ということを書かせていただきました。どんなに優れたサービスでも、使い勝手が悪ければユーザーはすぐに離れていってしまいます。そのような事態を避けるために押さえるべきポイントとして挙げたのが、「ユーザーを待たせないこと」、「シンプルで分かりやすいこと」、「コミュニケーションを取り入れること」の3つです。

今回はそのうちの「待たせないこと」と「シンプルにすること」の2つのポイントについて説明します。

「待ち時間」というのはユーザーにとってのコストです。余計なコストをどう削っていくかが、ユーザーに選んでもらうサービスにする大きな鍵になります。

例えば1秒間かかる処理があったとすれば、その処理の間、ユーザーは何もせずに待つことになります。たった1秒ですが、その1秒がユーザーには大きなストレスを与えるのです。端末から反応が返ってこないとき、ほとんどの人はメニューボタンやクリアボタンを″連打″します。何か反応するまで何度も押します。それくらい、ユーザーは待たされることに慣れていません。

スマートフォンの場合、モバイル端末ならではの問題もあります。パソコンと違って、スマートフォンのサービスやアプリというのは、何か別のことをしている合間の時間に利用されます。電車に乗っている時や、待ち合わせの時間、仕事や授業の休み時間など、ほんの数分の間に使われるのです。その数分のうちの貴重な何秒かを、ただ待たせるためだけに奪うわけにはいきません。待ち時間が長ければ、興味を失って使うのをやめてしまうかもしれません。

待たせないために何をしたらいいか

2-1 解決策は2つ

では、ユーザーに待たせないサービスを作るためにはどうしたらいいでしょうか。解決策は大きく2つに分けることができます。

ひとつは技術的なアプローチで改善する方法です。プログラムを最適化・高速化することによって、待たせる時間を少なくするのです。
ただし、高速化のためにCPUパワーを余分に使ってしまうと、その分バッテリーの消費量が大きくなるといった副作用があることに注意しなければいけません。携帯電話ではバッテリーの消費量もサービスの評価を決める重要なポイントになるので、待たせないことと合わせて意識する必要があります。使っているだけで、電池を消費してゆくアプリケーションなんて嫌ですよね?

もうひとつの解決策は、サービス的な部分で改善していく方法です。サービスの本質に立ち返って本当に必要な機能は何かを考え、無駄な機能を削ることで、ユーザーを待たせる原因となる処理を最小限に抑えるわけです。
この方法は「分かりやすさ」とのトレードオフという一面があります。画面に表示する内容が多ければそれだけ処理時間を減らすことができますが、だからと言って説明を一切表示させないのでは、ユーザーが何をしたらいいか分からなくなってしまうかもしれません。もしかしたら、壊れたと思うかもしれません。無駄を省きながらも、分かりやすいインタフェースを心掛ける必要があります。

また、待たせるのであれば、待たせることに見合うだけの価値を提供するということも大事です。待つという行為の先に魅力的な結果があると分かっていれば、多少の待ち時間は苦にならないものです。逆に、長時間待たせた挙げ句にあまり意味のない情報を見せるのであれば、かえって何も表示しない方がいいかもしれません。
例えば、「○○さん、こんにちは」と表示する処理に0.3秒かかるとします。これはユーザーを0.3秒待たせてまで表示したい情報でしょうか。ユーザーにとって何が必要か、何を見せるべきなのかをよく考えて判断することが重要です。


2-2 待たせないことが「シンプルにすること」につながる

このように、「待たせないこと」を意識してサービスの中身を取捨選択してゆくと、結果としてそのサービスはどんどんシンプルになっていくはずです。逆に、待たせないということをシンプルでない形で解決しようとすれば、世界観から外れるだけではなく、より処理が複雑になり、かえってパフォーマンスが落ちるといった結果になってしまうものです。複雑な対策を考える前に、まずはその機能が「いるのか、いらないのか」という点から考えましょう。

技術的なアプローチの場合でも同様のことが言えます。最適化というのは、言い換えれば無駄なステップを減らすことなので、やはりシンプルにしていくことにつながるのです。シンプルにすることでバッテリー消費量の問題も改善できますし、バグも発生しにくくなるという効果もあります。

一番だめなのは、Aの解決策を取る為に、Bを用意して、結果Cが出来上がると言うのは、物事をより複雑化するだけで、メリットがありません。本当にAがユーザーの目的の為に必要なかを考えるのが先です。


2-3 「迷ったときは捨てる」が原則

サービスをシンプルにするために機能を取捨選択する基準として、私の場合は「迷ったら捨てる」という方針を原則にしています。捨てることを決断するのは難しいものですが、だからと言ってあれもこれもと付け加えていったら、サービスはどんどん複雑になっていってしまいます。ですから「本当に必要かな?」と思った機能は思い切って捨ててしまうのです。
この方針で、後になって「やっぱり必要だった」となったような経験はほとんどありません。そもそも、本当に必要なものであれば最初から迷うことはないはずです。

自分ひとりで判断するのではなく、ユーザーの声を聞いて総合的に判断することも大事です。いろいろな意見や要望があると思いますが、そのときに明確な判断基準として役立つのが前回のVo.2でお話した「世界観」です。世界観に合うか、合わないかを基準に考えることで、そのサービスにとって本当に必要なもの、必要でないものが見えてくるはずです。すべてを実現すると物事の本質はより見えにくくなります。

ストレスを感じさせないで待ってもらうには

このようにして不要な機能を削ってシンプルにしても、ユーザーを完全に待たせないようにするのは難しいことです。どうしても削ることができない処理も当然あるでしょう。そのようなときには、いかにユーザーにストレスを感じさせないで待ってもらうのかが大切になりますが、そのポイントは「演出」です。

例えば、どうしても実行に0.5秒かかってしまう処理があるとします。その0.5秒の間、ユーザーに待ってもらわなければなりません。どうしたらいいか・・・?

1つの例としては、そこに画像を1枚表示するようにします。何の変哲もない普通の画像なのですが、その0.5秒間の印象が大きく変わるのです。

画面に何も表示されないままだと、ユーザーはイライラしてボタンを連打したり、画面から目を離したりして別のことを始めてしまいます。もしくは、壊れたと思って終了しようとするかもしれません。画像を表示することで、バックグラウンドで処理が進んでいることを示すと同時に、ユーザーの注意を画面に留める効果があるのです。他にも、ステータスバーや砂時計アイコンによる読み込み状況の表示などで、「終わりが分かる安心感」を与える効果が期待できますが、逆に「重い処理をしている」という印象を与える危険性もあるので、使い方に気をつける必要があります。

UIパーツの見せ方にもコツがあります。基本的な事ですが、ボタンをクリックしたときに、実際に押された感じが出るようなアニメーションにしたり、クリック音を出したりするといった簡単な方法などが考えられます。表示が変わらないままだと本当に押せたのかどうか不安になってしまうユーザーも多いので、それを防止する効果があるわけです。もちろん、この効果のために処理時間が延びる可能性も考慮しなければいけません。

このように、少し見せ方を工夫するだけでユーザーに与える印象を大きく改善することができます。そのやり方も、決してどれが正しいというものではありません。ここで重要視したいこととしては、必ずそのサービスの世界観に合った見せ方を選ぶべきだということです。世界観を崩すような見せ方をすれば、違和感が生じてしまい逆効果になりかねません。もちろん、このような見せ方による対策は、他の対策を全て行った上での最後の手段ということも忘れてはいけません。

差別化のためのエッセンス

さて、今回はスマートフォン向けのサービスを作る際に押さえるべきポイントとして「ユーザーを待たせないこと」を挙げ、それを切り口にして無駄な機能を除いて「シンプルにしていくこと」の重要性を説明してきました。多くのサービスの中からユーザーに選んでもらうためには、このようにして極力シンプルにしていった上で、他のサービスと差別化するためのエッセンスが必要になります。そのエッセンスとして大きな可能性を持っているのが「コミュニケーション」だと私は考えています。

そこで、次回はスマートフォンのサービスに対して「コミュニケーション」の要素を取り入れていくためのポイントを紹介しようと思います。


取材日:2012.02.08