2012年8月8日(水)
スマートフォン市場で勝ち残るサービスを作る Vol.5
新規市場に進出するための鍵も、やはり「シンプル」であること
グローバル化が進む昨今では、日本向けに提供していたサービスを海外に進出させるということも視野に入れなければならない。しかし、海外進出とは言っても日本のサービスをそのまま海外に持っていけばいいというものではない。
そこで今回は、海外をはじめとして、それまでとは異なる市場に進出する上で考えるべきポイントを取り上げる。
記事INDEX
これまで再三にわたってサービスをシンプルにすることの重要性を説いてきましたが、シンプルさというのは新しい市場に進出する場合においても極めて重要な鍵になります。
海外進出にしても、日本で流行ったサービスをそのまま海外に持っていったのでは成功するとは限りません。日本のユーザと海外のユーザでは、考え方や文化的な背景が大きく異なるため、そのサービスが必要とされているかどうかという点ですら異なるかもしれないからです。
シンプルなサービスであれば、海外のユーザがそのサービスの登場を望んでいるのかどうかを比較的容易に判断することができます。シンプルであるということは目的やシナリオがしっかりと確立しているということなので、その目的やシナリオが新たに対象とする海外市場のユーザに対しても有効に成り立つのかどうかを考えることができるからです。
逆に目的やシナリオが曖昧だと、必要とされているかどうかを考えるための基準が明確でないため、誤った判断を下してしまう危険性があります。
もし海外への進出が有効だと判断したのであれば、次に考えるべきことは、海外市場に適合するためにどんな要素を加える必要があるかです。 それを考える前に、まずは海外の企業が日本市場に進出するために何をしてきたのかという点に注目してみたいと思います。
日本市場は他国と大きく変わった市場をもっています。そのため海外の企業も、変化が早くしかも独特の価値観を持っている日本市場に進出する際にはたくさんの苦労をしてきたはずです。そこに市場の違いに対応するためのヒントがあると思います。
スウェーデンの家具販売店「IKEA(イケア)」は、今ではすっかり日本にも定着して人気を集めていますが、実は過去に一度日本から撤退した歴史を持っています。最初の日本進出は1974年で、日本の家具メーカーや百貨店と合弁会社を作って小売や卸売をしていましたが、今のように流行することはなく1986年に一度撤退しているのです。
このときの失敗の要因のひとつが、購入客が自分で商品を持ち帰って組み立てるというスタイルが、DIYがまだ浸透していない日本市場にマッチしなかったことだと言われています。
2度目の進出は皆さんの記憶にも新しい2006年(日本法人の設立そのものは2002年)です。
このときは、オープンと同時に、家具の組み立てや設置、不要な家具の引き取りまで含めた「配送・設置・組み立て」のサービスを展開しています。おそらく、1度目の失敗から家具を自分で組み立てるという文化のない日本の特性を研究し、そのような市場で成功するために必要な要素として組み立てのサービスを付加したのだと思います。
サイクロン式掃除機で有名なイギリスのダイソン・リミテッド(以下、ダイソン)も、日本進出で成功した代表的な企業のひとつに挙げることができます。
家電大国である日本では、海外の家電メーカーはなかなか成功を収めることができないでいました。ダイソンの掃除機にしても、当初は「おしゃれな家電」という位置づけで、今のようにスタンダードな地位を築くことができずにいました。
ダイソンが日本でのシェアを急激に伸ばし始めたのは、DC12というモデルからです。DC12は日本向けを強く意識して改良されたモデルだと言われており、本体の大幅な軽量化・小型化を実現しています。日本の家屋は欧米のように大きくないので、大きな掃除機では家具に引っかかってしまい、収納時にも邪魔になります。そこで、小型軽量化が日本で流行らせるために必要な要素だったのでしょう。
イケアやダイソンの事例で注目すべき点は、どちらもブランドの本質の部分を変えることなく、最低限の変化を上乗せすることで成功に導いているということです。
イケアの場合、北欧家具を安く提供するという本質の部分はそのままですし、主要な顧客層も変わっていません。
ダイソンの掃除機も、本質的な性能や、「ダイソンらしさ」というブランドの部分はそのまま継承されています。これは、日本市場の性質をよく分析して、他の国との違いを見出すことができたからこその成功と言えるでしょう。
私自身、過去に日本発の携帯電話向けBtoBサービスを韓国で展開するという仕事に携わった経験があります。
日本と韓国ではそもそも市場の枠組みが異なります。日本の場合は携帯電話のキャリア主導で市場が動きますが、韓国の市場はユーザ主導で成り立っていて、ユーザが本当にいいと感じるものでなければ流行りません。そういう中でどうやってサービスを展開していけばいいかを考える必要がありました。
そのときに強く感じたのが、「メイド・イン・ジャパン」にこだわって、日本独自の文化をそのまま持っていこうとしても上手くはいかないだろうということでした。
日本のユーザとは、もともとの考え方も文化的な背景なども違うわけですから、現地の人たちが何を求めているのかをしっかりと考えなければいけません。その上で、それが日本とはどのように違い、サービスのどの部分を変えることでニーズに対応できるのかを判断することが重要です。
そのような判断を正しく下すためには、サービスの本質の部分がシンプルであるということが不可欠なのです。本質がシンプルであれば、異なる市場に対応するために何が足りないのかを見極めることが容易になるからです。
イケアやダイソンは、自分たちのブランドの本質の部分をしっかりと把握していました。だからこそ、その本質を大きく変えることなく、日本市場で受け入れられるために必要な最低限のポイントを見出すことができたのだと思います。
日本のサービスを海外に持っていく場合でも、そのようなポイントを見つけ出すことが大切です。
海外展開というのは、市場の違いに合わせて自分のサービスをどう変化させるか、ということに他なりません。したがってここまで説明してきたことは、時流に合わせてサービスを変えていく場合にも当てはまります。
流行が変わったからといって、サービスの本質の部分を意識せずにただなんとなく合わせていこうという考え方では、どこかで判断を誤る危険性が高くなります。
まずはサービスの本質をシンプルにして、そのサービスをどんなユーザが利用するのか、利用することでユーザにどういう状態になってもらいたいのかをはっきり見据えましょう。それらが曖昧なままだと、ターゲットとする人たちの要望や利用状況がどう変わっているのかすら把握できなくなってしまいます。
もしターゲットとしている人たちに変化があったのだとしたら、具体的に何が変わっていて、何を提供すれば満足させられるのかを見極めましょう。
サービスを洗練させてシンプルにすることは極めて重要ですが、それと同じように、何かを変えようとしたときにはその変化さえもシンプルなものであるべきです。シンプルな変化とは、その変化によって「誰に」「どういう状態に」なってもらいたいのかを明確にすることです。変化がシンプルであれば、その結果がどうであったのかもはっきり分かるので、次の一手にもつながります。
基本的に、世の中は少しずつしか変わっていきません。その少しの部分を掴むためにも、シンプルであるということが大きな鍵になるのです。
取材日:2012.07.17
GMOゲームセンター
GMOインターネットグループ株式会社
2010年11月26日、Android端末向けのゲームアプリマーケットである「Gゲー by GMO」のβ版をリリース。スマートフォンの急速な普及が進む中、事業のさらなる強化と事業展開の迅速化を図ることを目的として、2011年6月1日に合弁会社を設立。続々と新規タイトルを世に送り出している。