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社内レポート

技術ブログ

2012年8月22日(水)

アメリカ発祥の新しいマーケティングリサーチ手法「MROC(エムロック)」 Vol.4

MROC事例報告1(設計・管理、運営上の課題)

海外では多くの事例があるMROCだが、国内ではMROCに取り組む企業はまだまだ少ないのが現状だ。そうした中、GMOジャパンマーケットインテリジェンス株式会社は実際のプロジェクトとしてMROCを1ヶ月間実施。どのようにコミュニティを運営してきたかなどについて、2回にわたって事例報告する。

MROCの設計・管理、運営上の課題についてレポートいたします。

※このレポートは、GMOジャパンマーケットインテリジェンス株式会社とGMOリサーチ株式会社の共同研究です。

記事INDEX

MROC事例の概要

~2つの製品グループに分かれて1ヶ月間MROCを実施~
今回のMROC実施に際しては、GMOリサーチが保有するオンラインアクセスパネル「infoQ」から次のように2つの製品グループに分けて参加者をスクリーニング。選ばれた調査対象者で1ヶ月間コミュニティを運営しました。

各グループの具体的な目的や規模、スクリーニング(選別)条件、実施の流れは、次の通りです。

なお、今回のレポートの主旨を逸脱しない範囲で、実際の調査対象とは異なる製品カテゴリーを表記しており、また、調査結果に関しても加筆・修正を加えております。予め、ご了承ください。


【1】目的
[1]デジタルカメラグループ:MROCがインサイト抽出にどれくらい有用であるか。また、どのようなマーケティング課題に向いているか。
[2]ペットフードグループ:調査対象者が製品の明確なブランドイメージをつかむことができるか。

【2】規模
オンラインアクセスパネル(GMOリサーチの所有パネルinfoQ)からスクリーナーによって抽出した30名のクローズドコミュニティ×2グループ([1]デジタルカメラグループ[2]ペットフードグループ)

【3】期間
約1ヶ月間(2011年11月1日~2011年11月30日)

【4】スクリーニング条件
[1]デジタルカメラグループ:今後1ヶ月以内にデジタル一眼カメラを購入する予定のある20代~40代のA社・B社・C社のコンパクトデジタルカメラ保有者
[2]ペットフードグループ:自宅で犬を飼育している女性(20代~40代の主婦)

【5】実施の流れ

〔1〕調査の企画・設計およびプラットフォーム準備(2011年9月~2011年10月)
■実施目的と条件(予算・利用可能なリソース)の確認
■対象者条件・タスク設定・モデレーション(進行)方針・アウトプット・実査フロー決定
 ⇒案件仕様確定
■プラットフォーム選定および契約
■細部のカスタマイズおよびテスト実施
〔2〕対象者リクルーティングおよび事前準備(2011年10月)
■案件仕様の対象者条件に従いスクリーナー設計
■セグメント設定・対象者への提示条件設定
■リクルーティング(スクリーナー配信・回収・スクリーニング)
■対象者への参加確認
■調査対象者誘導および参加督促
■調査対象者へのプレタスク実施(自己紹介・製品に関する意見・画像のアップロード)
■定員割れの場合の再リクルーティング(定員60名に対して18名不足したため追加依頼)
〔3〕本調査(MROC実施)(2011年11月)
■タスクの提示および実施(参加者58名でスタート)
 ⇒プロービング・深堀りのためのアスキング・ディスカッションの方向修正
  質問対応・不適切な書込みへの対応・脱落者対応
 ⇒デイリー/ウィークリーレポート・関係者ミーティング
  最終的に1ヶ月間アクティブだった参加者は、58名中47名(約81%)
〔4〕レポーティング・後処理(2011年12月)
■アップロードデータダウンロードおよび発言録作成
■デブリーフィング⇒レポーティング
■調査対象者へのインセンティブ支払い・プラットフォーム解約その他

コミュニティの管理運営について

~メイン、サブの2人のモデレーターが全体を進行~
MROCの運営では、次のようにインサイト抽出をするために、タスク全般の指示やディスカッションの進行を担当するモデレーターであるメイン管理者と、コミュニティを維持し活発化させる活動全般を担当するサブ管理者の2人が担当。モデレーターは週1回~2回程度のタスク(自分の行動記録や意見の書き込み、画像や動画のアップロードなど)を与え、調査対象者はタスクをこなすと同時に、対象者同士で書き込みに対する意見交換を行うという流れで進行しました。

■本調査時の毎日の流れ

1人のモデレーターが運営するには負荷が大きすぎたり、両者で視点が異なったりすることもあり、メイン管理者とサブ管理者はある程度業務を分担します。ただ、両者で協力しながらメインの目的であるインサイト抽出に向けて、コミュニティを活性化するための情報を共有し、調査対象者に指示を出して全体を進行します。

実施タスクについて

~MROCならではのライブ感のある定性調査を実現~
MROC運用中の1ヶ月間にモデレーターから指示されたタスクの流れをグループ別に紹介します。こうした中、調査対象者による製品使用時の画像のアップロードをはじめ、コミュニティ運営中に調査対象者が対象製品を購入してその感想を述べたり、未購入者と製品の使い勝手について意見交換したりするようなことは、従来のオフライン定性調査ではありえないことです。こうしたライブ感のある調査を実施できることがMROCならではのメリットだと言えます。


■本調査部分[1]デジタルカメラグループ

実施日程実施タスク
11/1【全体】改めて自己紹介
11/2【日記】プラットフォームにおける友達登録・日記のお願い
【全体】いま放映中のテレビCMについて
【全体】A社・B社・C社のイメージ
11/3【メーカー別】いま一番気になっているデジタル一眼カメラ
11/7【メーカー別】先週末何か情報を集めたか
11/10【全体】今までデジタル一眼カメラに買い替えなかった理由
11/13【メーカー別】先週末何か情報を集めたか
【A社】オートフォーカス機能について
11/14【メーカー別】CMを見たことはあるか(CMをURLで提示)
11/16【全体】デジタル一眼カメラの価格について
【全体】デジタル一眼カメラを買いました
11/17【全体】デジタル一眼カメラでどんなことをしたいですか
11/20【全体】周りにデジタル一眼カメラについて相談できる相手がいるか。それは誰か
【全体】デジタル一眼カメラが欲しいなと思った瞬間は
11/22【全体】デジタルカメラメーカーのHP
11/23【A社】この3週間で変化したことは何かあるか
【B社】動画撮影機能をどう思うか
【全体】写真のアップロード依頼
11/24【全体】ショップに行ってその報告
【C社】手ぶれ補正機能について
11/26【全体】現状、デジタル一眼カメラに変更していない理由
11/28【全体】このディスカッションに対する意見・感想

※調査対象者30名を「A社」「B社」「C社」のコンパクトデジタルカメラ所持者から10名ずつ選定し、それぞれのコミュニティを作成。【全体】は全員に対して共通して行ったタスク。【メーカー別】【A社】【B社】【C社】は、各コミュニティの参加者別(メーカー別)に実施したタスクです。


■本調査部分[2]ペットフードグループ

実施日程実施タスク
11/1【全体】改めて自己紹介
11/2【日記】プラットフォームにおける友達登録・日記のお願い
【全体】いま放映中のテレビCMについて
【全体】A社・B社・C社のイメージ
11/3【メーカー別】いま一番気になっているデジタル一眼カメラ
11/7【メーカー別】先週末何か情報を集めたか
11/10【全体】今までデジタル一眼カメラに買い替えなかった理由
11/13【メーカー別】先週末何か情報を集めたか
【A社】オートフォーカス機能について
11/14【メーカー別】CMを見たことはあるか(CMをURLで提示)
11/16【全体】デジタル一眼カメラの価格について
【全体】デジタル一眼カメラを買いました
11/17【全体】デジタル一眼カメラでどんなことをしたいですか
11/20【全体】周りにデジタル一眼カメラについて相談できる相手がいるか。それは誰か
【全体】デジタル一眼カメラが欲しいなと思った瞬間は
11/22【全体】デジタルカメラメーカーのHP
11/23【A社】この3週間で変化したことは何かあるか
【B社】動画撮影機能をどう思うか
【全体】写真のアップロード依頼
11/24【全体】ショップに行ってその報告
【C社】手ぶれ補正機能について
11/26【全体】現状、デジタル一眼カメラに変更していない理由
11/28【全体】このディスカッションに対する意見・感想

※調査対象者30名をドッグフード「製品A」「製品B」「製品C」の使用者10名ずつ選定。タスクは対象者全員に対して実施。

レポーティング

~インサイト抽出などの成果や問題点の整理~

【1】レポートの種類
MROC終了後、次の3種類のレポートを作成し、クライアントに提出しました。
・発言録
・アクティビティに関する定量情報や定量アンケート集計結果
 調査対象者の参加状況やコミュニティの活発度、アンケート集計結果などについてまとめます。
・定性情報の発言録の情報整理
 製品使用状況やインサイト抽出結果などをまとめます。

【2】問題点整理
次に、定量情報と定性情報(各グループ別、グループ共通)の課題をまとめました。

●定量情報
最後までアクティブに活動している調査対象者は約6割でした。このように脱落者は必ず発生するため、調査対象者が一定の割合以下になった場合は再リクルーティングを行うなどの対応を、事前に細かく決定しておく必要性があります。

最終的なアクティビティ人数割合備考
最終的にアクティブ4760.3%11/1~11/30の調査期間を通して参加
中途脱落33.8%
ログインのみ1114.1%ログインのみで書込みなし
調査対象外11.3%スクリーニング条件外れ
参加意思なし1620.5%参加督促に対する反応なし
78100.0%参加打診数



●定性情報

[1]デジタルカメラグループ
当初目的としていたインサイト抽出は、1ヶ月という短い期間では難しいように思われます。ただ、(1)グループが「コミュニティ」として成立していること、(2)発言するには意外と勇気がいるため、「いいね!」のような全員が簡単に意思表示できる機能があること、(3)一対一でメッセージをやりとりして意見を深掘りするための機能があること、といった条件が整えばインサイト抽出も可能になってくると思われます。

もう一つの目的であるどのようなマーケティング課題にMROCが向いているかについては、「サービス評価」「購入プロセスの把握」といった具体的なゴールが明確であるタスクについては、ある程度細かく回答が得られます。また、一日だけのオフライン定性調査では忘れてしまって発言できないことでも、MROCでは気づいた時にその都度発言してもらえるなど、対象者のタイムリーな情報に触れられることが大きなメリットだと言えるでしょう。

[2]ペットフードグループ
当初の目的である調査対象者に明確なブランドイメージをつかんでもらえるかについては、オフライン定性調査とそれほど変わりないレベルで、MROCならではのアウトプットは得られませんでした。また、調査対象者が真剣に考えて自分のイメージを伝えてくるわけではないので、製品やブランドイメージをテキストや画像で挙げてもらうことはなかなか難しい印象です。抽象的な意見を述べてもらう際は、オフライン定性調査の方が表情や態度も含めて調査対象者の持つイメージを理解しやすいように思われます。

[3]両グループ共通
デジタル一眼カメラについて、製品に詳しい人がそうでない人に教えるなど、情報格差の存在する調査対象者同士で意見交換がよく行われる傾向が見られました。また、「犬を飼育している女性」だけを集めたペットフードチームのように、同じ生活環境を持つグループは、共通となる話題があるためラポールが形成しやすいようです。

まとめ

最後に、今回のMROCのコミュニティ運用を通じて明らかになった課題や成果をまとめてみました。

【1】コミュニティとして維持するための工夫が必要
MROCコミュニティの維持だけでなく、調査対象者同士のやりとりを活発化するには、システムや運用にいろいろな工夫が求められます。

【2】アスキングにはオンラインであることを想定した工夫が必要
「情報はテキスト(+画像や動画)しかない」「調査対象者が時間を費やして答えを懸命に考えてくれるわけではない」ということを前提に、具体的に回答しやすいタスク設定、話を広げやすいプロービング(補足質問)が求められます。

【3】短期間のMROCでもアスキング中心の運用としては十分に機能する
1ヶ月程度の短期間MROCではコミュニティ内のラポール形成が難しいこともあり、どうしてもアスキング中心の運用となりますが、「サービス評価」「購入プロセスの把握」といった実態把握については十分機能することが分かります。


次回は、上記のような課題、成果を受けて、MROCコミュニティを活性化するためのシステムや運営の工夫などについて展開する予定です。