2013年2月27日(水)
海外マーケットに対する日々の研究が成功の鍵
グローバルをターゲットにした戦略を立てることが重要
ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ(株)(現ソニーモバイルコミュニケーションズ(株))や華為技術有限公司(ファーウエイ・テクノロジーズ /Huawei Technologies Co. Ltd )、(株)アクロディアにおいてグローバルビジネスを経験し、ヒット商品を手掛けてきた高橋が、日本市場と海外市場の違いに焦点を当てながら、スマートフォン向けアプリのグローバル展開を成功させるためのコツを紹介する。
記事INDEX
「Gゲー by GMO(以下Gゲー)」が国際展開ブランド「G-Gee(ジージー)」としてグローバル展開を開始したのは2011年の4月からで、最初のターゲットは北米でした。結論から言ってしまうと、この初期の展開は苦戦をしました。当時、携帯電話のキャリアや端末メーカーは各社で独自のアプリマーケットを展開しており、自社のAndroid端末にそれらのマーケット用アプリをプリインストールした形で提供していました。いわゆる野良マーケットと言われるものです。
当初の「Gゲー」は、端末メーカーと共同でそれらの独自マーケットに載せる形で海外への展開を進めようとしました。私自身はこのときまだ「Gゲー」専属の担当ではなかったのですが、独自マーケットに閉じた展開だけではなく、Android Market(現Google play)でも展開した方がいいのではないかと考えていました。スマートフォンのアプリマーケットは、近い将来Android MarketとAppleのApp Storeに集約されるだろうという予感があったからです。
独自マーケットの利点としては、アプリ公開のための審査基準などのルールを自分たちで決められることや、中間マージンを取られないため利益率が高いことなどが挙げられます。しかしそのような独自マーケットが乱立すれば、マーケット同士でユーザーや開発者を奪い合う結果につながります。
AppleがApp Storeで主導権を握ろうと試みていたのと同様に、Android市場でもGoogleが簡単に主導権を手放すとは思えませんでした。実際、Androidのアプリマーケットはその後のGoogleの姿勢の変化などによってAndroid Marketへの集約が急速に進みました。
アプリを提供する事業者にとって、対象とするアプリマーケットの規模やそこに集まるユーザーの嗜好は決して無視できない要素です。「Gゲー」の場合、Android Marketをターゲットにするように方針を切り替えたのは、2011年の秋からでしたが、その方向性が正しいという感触も早期につかむことができました。スマートフォン市場の動きは非常に活発で変化が早いので、それに乗り遅れないように常に動向を観察して、変化に対応した戦略を立てることが重要です。
アプリマーケットが集約されたことは、グローバル展開を進める上では大きなターニングポイントになったと思います。フィーチャーフォン時代のようにマーケットが日本向けに閉じておらず、世界中から同じマーケットにアクセスできるようになったため、日本にいながらでもグローバル向けのビジネスが展開できるようになったからです。
「Gゲー」は2012年11月現在、146ヶ国で展開していますが、グローバル展開の拠点は日本と北米にあり、アプリの企画もこの2拠点で行っています。日本や北米で企画して作ったアプリを、ひとつのマーケット上で世界中に向けて提供することができるのです。マーケットの規模そのものが段違いに大きくなったのですから、可能性も格段に広がっていると言えます。
とはいえ、当然ながらただ闇雲にアプリを作って公開しただけでは、ユーザーを獲得することはできません。マーケットが全世界向けに開かれているということは、それだけ多様なユーザーを想定しなければいけなくなったということです。日本向けの展開と比べて難しいのは、規模が大きすぎることで対象とするユーザー像を特定しづらい点だと思います。国や地域によって、ユーザー数や端末の種類、ゲームの嗜好性など、背景にある環境が根本的に異なるからです。
日本のマーケティングは、ユーザーの動向を非常に細かな部分まで分析し、市場の動きをコントロールしながら展開させていく手法が主流になっています。これに関して日本人は極めて豊富なノウハウを持っているのですが、グローバル市場はそもそも分析の対象が多すぎるので、これらに加えて大局的な視点で俯瞰をすることが必要になってくると思います。そこでグローバル向けの展開を進める上では、最初から全てをコントロールしようとせずに、まずは広い視野で大局を見て、大まかな方針を決めて走り出してみるスタイルの方が適していると考えています。そして、そこから先は状況に応じてフレキシブルに対応していくのです。
その際に、「やること」と「やらないこと」をしっかりと見極めることも重要です。全世界全地域のユーザーのニーズや要望を全て網羅しようとすると、本来の目的を見失ってしまいがちです。そうならないように本当に実現すべき範囲をきちんと決めて、それ以外の部分には手を付けないという割り切りも大切なのです。
もうひとつ重要なことは、グローバルな市場をターゲットにするのであれば、グローバル用の戦略を立てるということです。海外マーケットは、日本のマーケットとは性質が全く異なります。逆の言い方をすれば、日本のマーケットが海外の多くの国と比べて少し特殊なのです。そのため、日本のやり方+αの部分が必要になってくると思っています。例えばスマートフォン向けゲームの分野であれば、日本ではWebアプリケーション型のコンテンツも高い人気を誇っていますが、海外では端末にダウンロード/インストールして利用するアプリ型の方が好まれる傾向があります。日本と違って、通信事情のばらつきというのもその一因かもしれません。また難易度についても、日本では手軽さが重視される傾向にありますが、海外では難易度が高いゲームも好まれる傾向もあります。その他、好まれるグラフィックのタイプやゲーム性、ソリューションなど、本質的な部分での違いを挙げたらキリがありません。
海外向けの戦略を立てるためには、常に海外の事情に目を向け、日々研究を続けることが不可欠です。いろいろな国や地域を見て、それぞれの地域にどんなユーザーがいて、何を求めているのかを把握しなければいけません。全てをきっちりコントロールしようとは思わない方がいいと書きましたが、その一方で日々の情報収集や分析を怠らずに、常に状況に応じた施策を打ち出していくことも必要なのです。「やるべきこと」を適切に見極める判断力は、そのような継続的な研究によって身につくものだと思います。
国民性や生活基盤などの違いは、ゲームに対する嗜好性にも大きく影響してきます。したがって、それぞれの国でどのようなゲームが受け入れられるのか、観察力と想像力を働かせて企画を練り、マネジメントしていく必要があるでしょう。
そして、その中で日本ならではの技術やノウハウを活かしていくことが重要です。例えば、日本ほど詳細なデータ分析に基づいて緻密なマーケティングを行っている国は他にないと思います。日々の細かな努力を継続して行い、品質を高めていくことができるという点で、日本人は非常に高いスキルを持っています。現に、最近では、グローバルマーケットで成功する日本のコンテンツも急速に増えてきましたのもその表れだと思います。今や、マーケットがグローバル化されたことで、物理的にどこにいるかがあまり問題ではなくなってきました。肝心なのは、グローバルの視点とそれに対する研究と分析を行ない、どれだけ早く実行できるか、です。
私自身、過去のビジネスの中で様々な国に行って現地の事情をこの目で見てきました。「Gゲー」の海外展開ではその経験で鍛えられたバランス感覚が役立っています。今後のレポートでは、それらの経験に基づくグローバルマーケットの捉え方などをお伝えできればと思っています。
取材日:2012.11.26
GMOゲームセンター
GMOインターネットグループ株式会社
2010年11月26日、Android端末向けのゲームアプリマーケットである「Gゲー by GMO」のβ版をリリース。スマートフォンの急速な普及が進む中、事業のさらなる強化と事業展開の迅速化を図ることを目的として、2011年6月1日に合弁会社を設立。続々と新規タイトルを世に送り出している。