2013年4月10日(水)
IT大手企業のフリーキャッシュフローを比較
投資内訳から見える各社の内情に迫る
それでは、インターネット業界を牽引するApple、Google、Facebookを含めたネット4強の動向はどうなっているのでしょうか?
GMOインターネット株式会社グループ広報・IR部 アナリスト丸山敦士氏が、IT大手企業4社のフリーキャッシュフローを分析します。
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分析の基本は縦(時系列)と横(競合比較)ということで、各社の状況をみていくことにしましょう。
次のグラフは、各社の「FCF = 営業CF - 投資額」を並べてみたものです。
4社を比較すると、年間500億ドルのFCF生んでいるAppleが群を抜いていることがわかります。(詳しくは「配当を発表したアップル。その投資と回収のサイクルとは?」を参照)
前回の記事では「AmazonのFCFが激減」とお伝えしたのですが、Appleを比較対象にすると、視認できないくらいの水準になってしまいます。
AppleはiPhone4S、iPhone5とクリスマスシーズンに向けて製品をリリースし、それが営業CFの伸びに現れています。前年のクリスマスシーズンがあまりに好調だったこともあり、2012年2Q・3Qと一旦足踏みしたものの、2012年4QにはiPhone5のリリースもあり、年間567億ドルと前年を上回っています。
しかし、FCFはわずかながら前年を下回っています。これは、投資額の水準が年間40億ドル超から100億ドル超へと増大していることによるものです。
さて、Appleはじめ各社はいったい何に投資をしたのでしょうか?
キャッシュ・フロー計算書上の投資額は、B/Sに固定資産として乗ってきます。その固定資産(property and equipment)の明細は注記に記載があります。各社の有形固定資産の注記から数字の大きな箇所をまとめたものが下記の表です。
(下記の数値は減価償却前の取得価額ベースの数値です。また、Appleのみ9月末時点、他3社は12月末時点の数字です)
ウェブ・クラウドでビジネスを展開するには、ITインフラ投資が欠かせません。各社の投資も概ね、ITインフラ投資のようにみえます。ただし、それぞれのビジネスモデルの特性が資産の持ち方にも現れているようです。
【Apple】
Appleはネット4強の中で唯一といっていいリアル店舗を抱えている企業です。その影響が賃貸不動産の改良費(Leasehold improvements)に現れています。これはリアル店舗を賃貸している場合の、その改修のための支出です。
しかし、何より目につくのは、機械・器具・内部利用のソフトウェア(Machinery, equipment and internal-use software)の大きさ、そして増加率です。Appleの設備投資が大きく増えたのはこのためといえそうです。
ただし、この機械・器具・内部利用のソフトウェアに関しては注意があります。Appleは自社で工場は持たず、生産は外部委託しています(有形固定資産のリストに工場などという項目はないはずです)。この点、外部委託先に代わって製品の金型などの投資をAppleの負担で行っていることがあるようです。機械・器具・内部利用のソフトウェアに当該支出が含まれているものと思われますが、それがどれだけの規模なのかはこの資料から読み取ることはできません。
【Google】
Googleは他社に比べると直近の伸びが大きくないようにみえます。2011年は積極的な投資を行った一年だったようですが、サーバー自前主義を掲げ、IT資産に(Information technology assets)淡々と投資を継続しているというイメージでしょうか。
【Facebook】
サーバーのオープン化を志向しているFacebookですが、自前でもITインフラ資産を増やしているようで、ネットーワーク器具(Network equipment)が前年同期比で88%も増えています。
このように増加率を書くと、やはり気になるのはAppleの伸びの大きさです。上場間もない成長期にあるFacebookの増加率を上回っているというのは凄いことです。
【amazon】
前回も取り上げたamazonはITインフラ投資である内部利用のソフトウェア(Equipment and internal-use software)はもちろん、土地・建物といった物流センター投資が重くなっていることがわかります。
・デバイスのApple
・検索のGoogle
・ソーシャルのFacebook
・コマースのamazon
数年前までは比較的領域のはっきりしていたネット4強ですが、足元の状況はかなり複雜になってきています。
検索の領域でのチャレンジャーはFacebookとamazonです。
Facebookはお得意のソーシャルを基盤に検索でも存在感を示しつつあります。amazonは何年も前から検索に力を入れています。
ソーシャルの領域では、Google+がFacebookに挑み続けています。また、amazonは物を介したソーシャル・ネットーワークといえるかもしれません。
そして、最も競争が激しく、変化の可能性も高そうなのがデバイスの領域ではないでしょうか。
スマートフォン(iPhone、Android……)やタブレット(iPad、Nexus7、Kindle……)といった、いわゆるモバイル端末はいうまでもなく、最近ではウェアラブルコンピュータ(GoogleGlass、iWatch……)の萌芽もみられます。アニメ「攻殻機動隊」のように、インプラントされたコンピュータが登場するのもそう遠いことではない気さえします。
数々のデバイスを世に送り出してきたApple。この巨額の投資をみると「何か」を企んでいるのは間違いなさそうです。
本レポートは、企業業績や財務状況を直観的に判断できるビジュアライズレポートが個人投資家を中心に高い評価を受けている当社グループ広報・IR部の丸山(元、銘柄分析サービスの(株)シェアーズ アナリスト)が、独自の視点で企業・業界分析しているレポートです。
2013.04.01
*本文中に記載されている会社名および商品名・サービス名は、各社の商標 または登録商標です。
丸山 敦士
GMOインターネットグループ株式会社
銘柄分析サービスを提供していた株式会社シェアーズ(2012年にGMOクリックホールディングスに吸収合併)で企業分析の中核メンバーとして活躍し、企業業績や財務状況を直観的に判断できるビジュアライズレポートをブログ等で発表。現在はGMOインターネット株式会社のIR担当として活躍。