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2014年2月19日(水)
ブランデッド・コミュニティ×スーパープロモーター Vol.1
スーパープロモーターの概念説明
第1回は、「ブランデッド・コミュニティ」が注目されている背景や、そのコミュニティで活躍が期待される「スーパープロモーター」とはどのような人たちなのかについてレポートいたします。
記事INDEX
オンライン上のリサーチやプロモーションの一手法として、近年「ブランデッド・コミュニティ」といわれるものが実施されるようになってきました。ブランデッド・コミュニティとは、その名の通り企業(ブランド)がインターネット上に設立する常設型のオンライン・コミュニティのことであり、2007~8年頃から米国で取り組みが活発化し、世界各国に広まりました。
表1 実際のブランデッド・コミュニティの事例
http://www.starbucks.co.jp/
1971年に米国で開業したコーヒーチェーン店スターバックスが運営。
顧客は同社に対するアイデアを提案し、投票やコメントを受け取る。
コミュニティ内では活発なアイデア提供が行われている。
・GOGO pikapika MAMA(花王)
http://pikamama.comunity.kao.com/
洗剤、トイレタリー、化粧品などを幅広く提供する花王が運営。
乳幼児のいる母親をターゲットとした子育てコミュニティで、出産前から登録でき、
子どもの月齢に応じたコミュニティで会員同士のやり取りが可能。
もともとブランデッド・コミュニティは、以前に本連載で紹介したMROC(Market/Marketing Research Online Community)と呼ばれるオンライン定性調査の一種から発展したものです。
ただし、数週間といった短期間運用されるケースが多いMROCに対して、ブランデッド・コミュニティは、常設型にすることでリサーチコストを低減できるうえ、コミュニティ参加者へのプロモーションを通じて顧客ロイヤルティを向上させる役割を果たすこともできます。
また、従来型の一方向のみのプロモーションとは異なり、双方向性を備えたブランデッド・コミュニティは、コミュニティ内で試験的に実施したプロモーション効果を測定したり、情報の伝播速度や伝播内容を把握したりする場合にも有用です。
こうしたブランデッド・コミュニティが、今回のテーマである「スーパープロモーター」が活躍する舞台になります。
そもそもブランデッド・コミュニティが世界各国に広まった背景には、企業と顧客との相互作用により価値が共創されるという「価値共創型マーケティング」が広まってきたことがあります。この考え方が登場した経緯について、ここで一度振り返っておきたいと思います。
(1)価値共創型マーケティングが登場してきた背景
価値共創型マーケティングの登場には、製品志向のマス・マーケティングに代わって広まった顧客志向マーケティングの考え方が大きく影響しています。この顧客志向マーケティングは1980年代に入り、世界的に有名な経営学者であるP・コトラーの主導するSTPマーケティング(※1)や顧客ロイヤルティ概念によって理論化され世の中に定着。それ以降、以下のような3つの段階を経て進化していきました。
(※1)STPマーケティング・・・P・コトラーの提唱したマーケティング手法の一つ。Segmentation/Targeting/Positioningの頭文字をとったもので、自社が誰に対してどのような価値を提供するのかを明確にするための要素を示す。
第一段階 CRM(顧客関係管理)の定着
80年代後半~90年代前半、コンピュータ性能の飛躍的な向上を背景に、顧客志向マーケティングの中でも、顧客の属性や購買履歴をデータベースより紐付けて、顧客一人ひとりに最適なアプローチを行うデータベース・マーケティングが一般化しました。これらにポイントカードやDM(ダイレクトメール)、コールセンター業務などを結び付けて最適化させたシステムによる顧客管理手法はCRM(Customer Relationship Management)と呼ばれています。
このCRMが普及した背景には、既存顧客維持のコストは、新規顧客獲得よりも格段に安価であるという認識が企業社会に広まったことがあり、CRMは継続的に顧客であり続けてもらうことを最大の目的としています。
第二段階 一方向プロモーションから双方向コミュニケーションへ
CRMは的確な顧客セグメンテーションの手がかりを与えましたが、90年代前半までの顧客へのアプローチは、企業から顧客に向けた一方向のみでした。そうしたなか、90年代後半からブランド・リレーションシップ(ブランドと顧客との関係)研究を通じて、顧客とブランドとの絆や愛着を重視する考え方が提起されてきました。さらに、顧客の意識も少しずつ成熟し、「ものを言う」消費者が登場してきたことを背景に、マーケティング・ミックスに端を発するIMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)の概念(※2)が拡張。具体的には、単に顧客との接点を効率的に統合するだけでなく、その接点を通じて顧客とのリレーションシップを築くことそのものがIMCの主目的であるという概念が進化し、顧客とのコミュニケーションは次第に双方向型アプローチに変化していきました。
以上のように、双方向コミュニケーション志向へと転換していく一連の流れにおいて、ブランド価値の維持にはSTPに基づくIMCだけでは不十分であるという認識が広がり、規模の小さな共創がみられるようになりました。
(※2)IMC・・・統合型マーケティング・コミュニケーション(Integrated Marketing Communication)。広告・プロモーション・クリエイティブといった顧客接点をトータルで設計し、一貫して説得力のある顧客コミュニケーションをとろうとするマーケティング概念。
第三段階 インターネットの発展とSDL(サービス・ドミナント・ロジック)に裏付けられた価値共創型マーケティングの登場
2000年代に入り、顧客との共創に加えて、インターネットの発展という技術的進化、SDL(サービス・ドミナント・ロジック)という理論的裏付けが与えられたことから、顧客志向マーケティングに大きなパラダイム転換が起きました。それが価値共創型マーケティングの登場です。この第三段階については次節で詳しく紹介します。
(2)価値共創型マーケティングとは何か?
①サービス・ドミナント・ロジック(SDL)概念の登場
2000年代に入ってから注目されたマーケティング2.0とは、これまで紹介してきたCRMやIMCを中心とする顧客志向マーケティングとほぼ同義だと言えます。ただし、企業(生産者)が顧客(消費者)に対して、何らかの価値を製品・サービスとして提供する「交換=購買」の瞬間を特別なものとしてとらえ、主たる分析対象としてフォーカスしている点では、従来の製品志向マーケティングとの差異はあまりありません。
これに対して、価値実現は交換ではなく、交換後の顧客の使用プロセスを経て具現化されると提唱し、マーケティング2.0以降の新たな潮流として注目されているのが、2004年にスティファン・L・バルゴとロバート・L・ラッシュが提起した、「サービス・ドミナント・ロジック(以下SDL)」の概念です。(図2/図3)。
SDLとは、有形財も無形財もすべてをサービス(services・・・一般のサービス概念とは異なり、『知識・スキルを適用することそれ自体』)ととらえ、企業は自らの知識・スキルを顧客に提案し、顧客も自らの知識・スキルを適用して提案された価値を創造する(有形財なら使用すること)という双方の共創により初めて価値を実現するとしています。これらにより、企業と顧客との関係は、企業側から一方的にプロモーションやリサーチを行い、その結果としての商品・サービスを交換するだけの関係から、共に価値を創造し合うより深みのある存在へと位置付けられることになりました。
従来、マーケティング・リサーチでもエスノグラフィーやインタビューを通じて顧客の利用状況を知ろうとする試みは行われてきましたが、それはあくまで旧来のGDL(グッズ・ドミナント・ロジック)概念のもとで、「顧客に売れる商品、サービスを一方的に提供」するためでした。
これに対して、SDLでは、企業と顧客は「共に知識・スキルを適用して、価値を創造する存在」へと昇華され、商品の開発⇒完成⇒交換⇒利用を通じ、常に共創する主体という認識が与えられることとなりました。
SDLの特徴をまとめると、以下の通りです。
事例:
高性能で評判のよいテレビがあり、多少高価ですが、一定の売上を上げていました。この場合、旧来のGDL概念でいえば交換(購入)が成立した段階で顧客の価値実現は終了したことになります。しかし購入後、顧客の家に設置するスペースがなく、押し入れに入れられたままになっていれば、SDLの概念では顧客が得ている価値は0円となります(保管スペースが必要なことを考えるとマイナスかもしれない)。一方、別の顧客はテレビにオブジェとしての価値を見出し、本来とは異なる用途で価値を実現しているかもしれません。SDL概念では、交換=価値実現ではないところが、それまでの概念と比較した大きなパラダイム転換です。
(2)SDLとインターネットの進化が結実した価値共創型マーケティング
SDLは、マーケティング2.0の中心だったCRM(one-to-oneマーケティング)に加えて、顧客と共創を行うための多様なエンゲージメント構築を視野に入れていますが、その背景にはインターネットの進化が大きく寄与しています。特にソーシャルメディアの発達は、企業が顧客の価値創造に耳を傾けることを可能にしました。また、顧客サポートのチャネルも多様化し、オンライン上のコミュニティで商品開発を行う事例も増えています。
こういったインターネット技術の発展によって、顧客側からの情報発信・顧客同士の情報交換が容易になったことが、共創の可能性を大きく広げています。情報化の進んだ顧客は、情報の取捨選択を賢明に行うようになり、企業以上に情報を保有する場合も珍しくありません。それが真摯に顧客とコミュニケーションを取ろうとする企業側の姿勢の変化にもつながっています。
このように企業と顧客が双方向で価値創造に参加する形式をとるマーケティングを「価値共創型マーケティング」と呼んでいます。以下は、代表的な例です。
表2 代表的な価値共創型マーケティングの例
・ソーシャルメディアを利用した情報発信、顧客サポート
・CGM上の(※3)UGC観察(※4)
・オンライン・コミュニティを利用したリサーチ、プロモーションなどの
マーケティングに関する取り組み
(※3)CGM・・・Consumer Generated Media(消費者が生成するメディア)
(※4)UGC・・・User Generated Contents(ユーザーが生成したコンテンツ)
価値共創型マーケティングは、SDLという理論確立とインターネットの発展という技術的裏付けによって、最近のマーケティング業界で新たな方向性として結実し、現在さまざまな取り組みが開始されています(図4)。
なお、ブランデッド・コミュニティは、価値共創型マーケティングに対して親和性が高いと考えられています。価値共創には企業と顧客の継続的な対話が必要ですが、常設型コミュニティはその場の提供が可能です。また開発段階から開発者の思いを参加者(顧客)と広く共有でき、発売後の参加者(顧客)の利用価値をすぐに把握できます。
また、コミュニティという形態そのものがロイヤルティの高い参加者同士の対話につながり、参加への熱いモチベーションを生み出す源泉となります。
ブランデッド・コミュニティは前述のとおり価値共創型マーケティングの舞台として有用ですが、そこに参加する顧客が誰でもよいわけではありません。自由にディスカッションできる場を提供するだけでは不十分で、積極的にブランドとの接点を持ってコミュニティを盛り上げる参加者とメーカー側のシナジーを生み出すためには、参加者の性質も重要な要素となります。
そこで、GMOリサーチはブランデッド・コミュニティの参加者として「スーパープロモーター」と呼ばれる人々を一定数含めることを推奨しています。
(1)スーパープロモーターとオピニオンリーダーは異なる
スーパープロモーター(Superpromoter)とは、オランダの「The Superpromoter Academy」が提唱している概念であり、表3のように定義されています。
つまり、スーパープロモーターとはブランドや製品に格別な思いを持ったファンで、それについての情報を周囲にシェアし、シェアされた側がそのブランドや製品を使用し始めるほど影響力のある人たちのことを指します。
GMOリサーチでは、このスーパープロモーターをコアメンバーとして採用することで、ブランデッド・コミュニティの運用において享受できるメリットを最大限に高めることができると考えています。
ただし、スーパープロモーターは、インターネットにおける「オピニオンリーダー」「インフルエンサー」という人々とイコールではないことに注意してください。(図5)
スーパープロモーターは、特定のブランドや製品に対してEnthusiasm=「格別な思い入れ」を持っており、それらに対する意見を忌憚なく主張し、周囲に影響を与えられる人たちのことです。単に自分の意見を主張して周囲に与える影響が大きい「オピニオンリーダー」とは重なる部分はあるものの、厳密には異なる概念だと言えるでしょう。
例えば、自分の思い入れのある製品やブランドがあり、家族や友人にそれを共有し、彼らがそれを使用し始めたといった経験がある人は、インターネット上での知名度や発言力の大きさに関わりなく、その製品やブランドのスーパープロモーターに分類されます。
(2)スーパープロモーターの重要性について
スーパープロモーターは特定のブランド・製品に大変な愛着と強い思い入れを持っています。そのため、企業が依頼しなくても、自らの意思を持って無償でそのブランドや製品を勧めてくれるだけでなく、彼ら自身も企業と共創した活動を行いたいと考えています。彼らとコミュニケーションを取りながらブランデッド・コミュニティを維持することで、図6のような重要なメリットを享受することが可能です。
また、共創の舞台であるブランデッド・コミュニティを運用・維持する最大のメリットは、企業とスーパープロモーターを含む参加者との間でダイレクトなコミュニケーションを定常的に図れる点だと言えます。
(3)スーパープロモーターの選定の仕方とは?
①従来のサンプリングとの差異
スーパープロモーターの考え方は、従来の調査で実施されてきた母集団を推定するためのサンプリングなどとは根本的に異なります。表3の定義にあるように、スーパープロモーターはランダムサンプリングで抽出できるようなものではなく、各個人に内在する性質だからです。
②スーパープロモーターの基本条件
そのためスーパープロモーターを選定する基本条件は、定義に照らし合わせて以下の表4のようにまとめることができます。
次回は、スーパープロモーターをより詳しく解説し、事例紹介を行います。
「ブランデッド・コミュニティ」についての詳細問合せは以下まで。
GMOリサーチ株式会社 JMI事業本部 担当山本
Tel.03-5784-1100
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