技術ブログ
2015年12月16日(水)
消費者の無意識な情動変化を分析する生体反応測定調査-Vol.3
感性分析を用いた動画コンテンツの評価
記事INDEX
Emotion Measurement Series4感性分析は、株式会社夏目綜合研究所が開発、提供する「感性判定解析システム」と、GMOリサーチが提供する「アイトラッキング」とよばれる視線計測システムとを組み合わせたサービスです。
これを通じて、調査対象者が「何を見ているか」に加えて、「どの程度注目(関心)したか」「どのような感情が表出したか」を解析することが可能になります。
前回紹介したモニター上のポスター数案から最終案を決定する事例に引き続き、今回はテレビCMを念頭に次のようなマーケティング調査を想定し、感性分析を用いた動画コンテンツの評価事例を示します。
目的:調査対象者に15秒尺の動画コンテンツを視聴してもらい、「伝えたい箇所に注目されているか」「想定通りの感情が表出しているか」を男女別に評価する。
手法:調査対象者にモニターの前に座ってもらい、モニターに評価対象となる動画コンテンツを提示して感性分析を行う。
■静止画と動画のデータ解釈の差異
一般に、静止画では時間が経過しても背景が同じなので、座標が同一であれば同じものを見ていると判断できます。しかし、動画では調査対象者が見ている座標は同一でも、背景が変化しているため、必ずしも同じものを見ているとは限りません(図1)。したがって、動画の評価時には、座標とその内容を照合しながら解釈する必要があります。
■評価する動画コンテンツ
今回評価する動画コンテンツは図2になります。夏を意識したスポーツドリンクの15秒尺のテレビCM動画で、最初に南国の海と砂浜が登場。続いて波打ち際をバックに駆け回る楽しそうなカップルの男女が現れ、テーマソングが流れる中、二人が水をかけ合うシーンで笑顔の男優と女優がアップされます。さらにシーンが切り替わり、パラソルの下でくつろぐ二人が手にしているのは冷えたスポーツドリンクのボトル。さらに起き上がってスポーツドリンクを一気に飲み干すシーンで女優の顔がアップになり、最後のシーンでは商品・商品名が大きく表示されます。
■注目度の時系列評価
男性10名、女性10名の調査対象者に上記の評価対象動画コンテンツを視聴してもらいました。感性分析に基づいて測定した瞳孔径変化を解析した注目度を時系列で表したのが図3のグラフです。青が男性10名の平均値、赤が女性10名の平均値で、数値が高いほど、動画に注目していることを示しています。
大きな傾向は男女ともに類似しており、5秒後前後に注目度の一つのピークがあります。5秒後〜12秒後は、両者とも漸減し、12秒後からもう一つのピークが見られます。
男女別では、5秒後前後にある最初のピークに至るまでの注目度の推移に差異がみられます。男性が0秒後〜5秒後少し前まで漸減した後、5秒後直前から急上昇しているのに対して、女性は5秒後少し前まで緩やかに上昇を続けています。また、第2のピークが男女ほぼ同時に発生していますが、特に男性の注目度が高いことが目を引きます。
各経過時間における動画の内容を見ると、5秒後までは、海⇒波打ち際のシーン、5秒後あたりから笑顔の男優、女優がアップになることから、男性の注目度上昇は登場人物に反応している可能性が高いと言えるでしょう。同様に女性は、動画開始時点から夏のシーンそのものやカップルのふれあいに反応していると考えられます。また、第2のピークである12秒後からスポーツドリンクを飲む女優がアップになるので、そのシーンに注目が集まったと判断できます。
■注目度の高い時間帯の注目エリア評価
それでは、注目度が男女ほぼ同時に上昇している第2のピークについて、画面のどこに視線が集まっていたのでしょうか?感性分析では、瞳孔径変化とともに視線の計測も行っているため、各調査対象者が画面のどの座標に注目していたかも明らかにすることが可能です。
このデータを用いて、縦に8分割、横に8分割した画面内で、12~13秒後、どのエリアに注目されていたのかを男女別に表示したのが図4です。赤は注目度が高かったエリア、青は低かったエリア、無色は注目されなかったエリアを示しています。
これを見ると、男性は女優の顔や胸元を集中して注目しているのに対して、女性は女優の顔を中心としながらも、髪や上半身、手に持っている商品まで広く注目していることが分かります。図3に見られたように、12秒後から注目度が急上昇しているのは、シーンが切り替わり、スポーツドリンクを飲む女優がアップになったことが主な要因ですが、注目エリア評価の結果から、注目している箇所について、男女で差異があることは明らかだと言えます。
■感情評価
動画において注目されるタイミング、エリアは判明しましたが、そのとき調査対象者はどのような感情を表出していたのでしょうか?感性分析では、株式会社夏目綜合研究所が開発・提供する「感性判定解析システム」で表情反応を解析することにより、「喜び」「怒り」「恐れ」「嫌悪」「悲しみ」「驚き」という人間の基本的な6つの感情をもとに、その推移を可視化することが可能です。今回の事例で男女別に調査対象者各10名の表情反応の平均値を可視化したグラフが図5になります。
感情評価においては、もっとも数値の大きい感情を、表出した感情として扱います。図5の結果にあてはめると、注目度(図3)と連動する形で、「喜び」と「驚き」の感情が上下し、ネガティブな感情は表出していないことが分かります。男性の場合、注目度が急上昇しているのは5秒後、12秒後前後でしたが、同時間帯の感情評価(図5)を見ると、5秒後から10秒後にかけて表出している感情は「驚き」であり、12秒後にはさらに「驚き」が上昇しています。登場した人物に反応したと思われる注目度の高まりとともに表出した感情は「驚き」であって、最後には「喜び」が見られます。
一方で女性は、動画視聴中に全般を通して見られる感情は「喜び」になっています。注目度(図3)のグラフでは第1のピークへの上昇過程以外は男女で似た傾向を示していましたが、感情評価に関しては、男性と傾向が異なり、「喜び」の感情を持って動画を観ていたことが分かります。
以上のように、注目度同様、感情の起伏に男女で細かい差があることが分かりました。
今回の内容を要約すると以下の5点になります。
1.感性分析で動画コンテンツを評価する際には、静止画と異なって背景が変化するため、動画の内容と照合しながら解釈する必要がある。
2.15秒尺のテレビCM動画を用いた男女別評価において、注目度は大きな傾向として男女で類似しているが、ピークに至る過程の違いや注目度の差から男性は登場人物に、女性はシーンそのものに反応している可能性が高いことが分かった。
3.男女ともに注目度の高まった時間帯の注目エリアを可視化すると、男性は女優の顔および胸元を集中して注目しているのに対し、女性は女優の顔を中心としながらも、髪や上半身、手に持っている商品まで広く注目していることが分かる。
4.感情評価を見ると、男女で異なる傾向が見られ、男性は「驚き」の感情が表出した後、最後に「喜び」が見られるのに対して、女性は全体的に「喜び」の感情を持って動画を観ていた。感情評価に性別差が存在することが分かる。
5.以上のように、感性分析は調査対象者が「何を見ているか(視線計測)」「どの程度注目(関心)したか(瞳孔径変化)」「どのような感情が表出したか(表情変化)」の3点を可視化することによる動画コンテンツの評価が可能で、たとえば今回のような性別差を検出することができる。
次回は、感性分析を応用したアンケート回答確信率の仕組みについて取り上げます。
「生体反応測定調査」についての詳細問合せは以下まで。
GMOリサーチ株式会社 国内事業本部マーケット・インテリジェンス事業部 担当工藤
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