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社内レポート

2011年7月6日(水)

ベルギーの【eIDカード】を支えるGMOグローバルサインの電子証明書技術

eID先進国における国民IDカード活用事例の紹介

今回は、「私たちに身近なビジネスと関連した電子証明書技術解説シリーズ」の番外編として、電子証明書先進国であるベルギーで約850万枚発行されている“eIDカード(国民IDカード)”の活用事例を紹介。国民の8割以上に普及している “eIDカード” のしくみやそれを支える電子証明書技術について、GMOグローバルサイン株式会社 代表取締役社長 中條一郎氏、同社取締役 武信浩史氏が語る。

記事INDEX

ベルギー電子政府のコンセプトをGMOグローバルサインが構築

ベルギーでは12歳になると、常に携帯を義務付けられている “eIDカード” が発行されます(12歳以下はキッズカード)。1999年制定のEU電子署名指令を背景に2003年からスタートした、ベルギー連邦政府が国民向けに電子認証カードを発行するパイロット事業をきっかけに誕生した “eIDカード” 。

実は、このプロジェクトには、GMOグローバルサイン(当時はGlobalSign)が深くかかわってきました。

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もともとGlobalSignは、ベルギー商工会議所とセキュリティベンダー会社「ユビゼン」の共同出資により設立された認証局ですが、このプロジェクトのベンダ選定に際しては海外の認証局も含む競合コンペが行われ、ベルギー政府からは数々の厳しいリクエストが出されました。
その厳しいリクエストの全てに解を用意できた唯一の認証局としてGlobalSignが電子政府プロジェクトに採用され、「eID電子証明書ベンダ」となったのです。

そうした経緯もあって、現在もGlobalSignルート認証局はベルギー電子政府プロジェクトの最上位認証局として、政府機関向けSSLサーバ証明書及びeID(署名検証)にも使用され、電子政府基盤を支えているのです。

“eIDカード” には2種類の電子証明書が組み込まれている

以前、ベルギー国民は、紙製による顔写真入りIDカードを所持していました。その進化形である “eIDカード” は、顔写真や性別、姓名、出生地、発行日などの個人情報が記載されており、実社会での身分証明書としてだけではなく、インターネット上でも活用できるように、「認証用」と「署名用」の2種類の電子証明書がICチップに組み込まれています。


1. 認証用
この電子証明書(正確には対応する秘密鍵も合わせて)を所有する人のみがアクセスできる行政サービスポータルサイトが用意されており、ベルギー国民が、国や公共機関、地方自治体が提供する行政サービスをインターネット経由で利用することができます。これらのサイトへアクセスする際のユーザ認証に使用。

2. 電子署名用
本人が実社会で行政への手続きや申請を行う際のサイン(日本では実印)と同じような効力を、インターネット経由のやりとりに持たせるための電子署名に使用。

※ ちなみに日本では、平成16年1月19日に施行された「電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律(通称:公的個人認証法)に基づく「公的個人認証サービス」という枠組みの中で、住基カード(住民基本台帳カード)に署名用の電子証明書のみを組み込む形で国民IDがスタートしています。

カードタイプは、成人用、学生用、児童用、幼児用など5種類

ベルギーの “eIDカード” は以下のように年齢や国籍によって5種類あります。乳幼児は親が子どもに代わってカードを所持しているようですが、基本的には子どももカードを携帯することが原則となっています。

【0~6歳用】 → キッズカード(券面印刷のみ・電子証明書なし)
【6~12歳用】 → キッズカード(券面印刷のみ・電子証明書なし)
【12~18歳用】 → eIDカード (券面印刷・認証用電子証明書のみ)
【18歳以上用】 → eIDカード (券面印刷・認証用電子証明書及び署名用電子証明書)
【ベルギー国籍以外】   → 外国人用カード

このカードの仕様は、先述したEU電子署名指令に沿って作成されているので、ヨーロッパ各国ともほぼ共通したデザインや機能となっています。その中で、特にキッズカードの特徴としては、EU内に旅行する際にはパスポート代わりとして使えることや緊急連絡先の情報も読み込まれているので、迷子になった時は保護者と連絡がとれることが挙げられます。

2つの配布ルートでセキュリティを考慮した “eIDカード” 発行プロセス

“eIDカード” の発行は以下のような流れになります。

まず、ベルギーでは18歳になると、国民IDナンバーを管理している役所の担当部門から “eIDカード” の発行案内が送られ、本人が役所に出頭して面接による本人確認が行われます。

次に、役所からカード作成依頼を受けたカード製造会社が、認証局で生成された認証用と署名用の2つの電子証明書データを組み込んでカードを生成します。

こうした段階を経て出来上がった “eIDカード” は本人が再び役所に出頭して受け取りますが、電子認証時に用いるパスワードに関してはカード製造会社から直接名義人に郵送されるしくみになっています。
本体とパスワードの配布ルートを2つに分けることで、セキュリティを担保したカード発行プロセスとなっています。

「eIDカード」発行プロセス
「eIDカード」発行プロセス
“eIDカード” を使うとインターネット上で多様な行政サービスが受けられる

“eIDカード” をカードリーダーで読み込ませて、ベルギー政府が運営しているポータルサイトにアクセスすれば、自宅のPCからさまざまな行政サービスを受けることが可能です。具体的には、転居時に電気・ガス・水道などを手配できる「e-Move」、電子税務申告「INTERVAT」、医療情報サービス「e-Health」、外国人が滞在許可証の有効性を確認する「checkdoc.be」などが挙げられます。

また、eコマースへのアカウント登録やネットバンキングでの融資申込など高度なセキュリティが必要とされるインターネット上のやりとりでも、 “eIDカード” を使えば容易に本人性が認証できるので、スムーズに手続きが可能です。

“eIDカード” を普及させるには、どんな利便性を付加するかが決め手

ベルギーでは、 “eIDカード” 発行枚数が人口の8割以上ですので、電子社会化が進んでいるように思えますが、実際にはインターネットに慣れていない高齢者などにどのようにカード利用を促進していくかなどの課題も抱えているそうです。そのため、各省庁を横断してe-Governmentを運営しているベルギー連邦政府の電子政府推進機関(Fedict)は、さらなる電子化促進に向けてeID技術およびインフラ改善に取り組んでいます。

今後、日本でも安心安全なインターネット利用や行政サービス向上などを目的として “eIDカード” と同様な電子政府推進に向けた施策の検討が期待されますが、その場合は、e-Tax利用以外への使用用途の拡大とともにエンドユーザーである国民にどのような利便性を提供できるかが文字通り「鍵」になると思います。