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社内レポート

2012年4月18日(水)

スマートフォン市場で勝ち残るサービスを作る Vol.3

本質とは無関係な機能を取り除いてシンプルにすることは重要だが、それだけでは他サービスとの明確な差別化はできない。そこで、差別化のために考えるべき要素としてスマートフォン市場における『コミュニケーション』を取り上げる。

GMOゲームセンター株式会社で取締役副社長を務める木村貢大による、GMO最新ネット業界レポートシリーズ「スマートフォン編」。長年にわたり携帯電話向けミドルウェアやサービスの開発に従事してきた木村が、独自の視点からスマートフォン市場で勝ち残るためのポイントを解説する。

「スマートフォン市場で勝ち残るサービスを作る -Vol.1- 第一歩は『世界観』を決めること」でも紹介したように、スマートフォン向けのサービスを考える上では、サービスの本質を明確にした上で、その本質とは無関係な機能を取り除いてシンプルにすることが重要となる。しかし、シンプルにするだけでは、他のサービスとの明確な差別化はできない。そこで今回は、差別化のために考えるべき要素としてスマートフォン市場における『コミュニケーション』を取り上げる。

記事INDEX

そのサービスを使った結果、ユーザーが何をしたくなるかを考える

前編「スマートフォン市場で勝ち残るサービスを作る-Vol.2- ユーザーを待たせないということ」では、スマートフォン向けのサービスを作る上で「ユーザーを待たせないこと」、そして本質とは関係のない無駄な機能を除いて「シンプルにすること」の重要性を説明しました。

しかし、そうやって洗練させたサービスを他のサービスと差別化するためには、そこにプラスアルファのエッセンスを追加する必要があります。では、どのようなエッセンスを加えればより多くのユーザーに使ってもらえるようになるのでしょうか。ここで大きな可能性を持っているのが「コミュニケーション」の要素だと私は考えています。

ユーザーに提供するプラスアルファの価値を考える上では、ユーザーがそのサービスを使った結果として、「次にどんな行動を起こしたくなるのか?」ということにフォーカスを当てなければいけません。例えば、そのサービスがユーザーの生活を便利にするものであれば、便利になった結果としてユーザーは次に何をしたくなるのか。楽しむためのサービスであれば、楽しんだ後でどうするのか。

多くのユーザーは、その喜びや楽しさを他の誰かに伝えたくなるはずです。これがまさしく、「コミュニケーション」という要素に繋がるのです。

一つの典型的な例としては、写真付きメールの機能を挙げることができます。
常に持ち歩いている携帯電話にカメラ機能が付いたことによって、ユーザーはいつでも写真を撮って記録ができるという便利さを手に入れました。しかし、もしそれで完結していたら、今のように全ての携帯電話が当たり前のようにカメラ機能を備えているというような状況にはならなかったのではないかと思います。

多くの人は、写真を撮ったらそれを家族や友人などに見せて、そのときの状況や感動などを伝えたいと考えるでしょう。撮影した瞬間にそれを行えるようにしたのが写真付きメールです。単に写真を撮れるというだけではなく、撮った写真を誰かに送るというコミュニケーションの機能を付け加えたことによって、相手と楽しさを共有できるという新しい価値が生まれたのです。

もともと携帯電話というのはコミュニケーションのためのツールなので、その上で展開するサービスにおいても、本質を外さずにコミュニケーションの要素を取り入れやすいというメリットがあります。写真付きメールは、メールによる「会話」というコミュニケーション機能に対して、画像という新しい要素を加えたものと考えることもできます。そのため本質を外すことなく携帯電話の世界観を広げることに成功しています。

人間のエモーションをくすぐる演出が大事

自分なりの表現を他人に見せる事や、他人の表現を見られるようになってくると、同時に「他人に見られている」という感覚が身につくようになります。その結果、自分一人で使っている時よりも多くの感情がそこに働くようになります。

例えば恥ずかしい行動は慎もうとか、もう少し可愛く飾ってみようと思うようになるのです。サービスにコミュニケーション要素を取り入れる際には、そのような、ちょっとしたエモーションをくすぐる演出を用意することで、より多くの人に興味を持ってもらえるようになるでしょう。

一つの例として「装飾付きメール」を考えてみましょう。従来のテキストや記号だけのメールでも、コミュニケーションの役割としては十分だったはずです。しかし、多くの人が絵文字などの装飾付きメールを利用しています。少し手間をかけてでも、相手にもっと可愛いメールを見せたいと思っているわけです。装飾付きメールは、コミュニケーションを豪華にするのと同時に、自分を表現する手段として使えるようにしたものだと言うことができます。

また、「アバター」もエモーションを刺激するものの好例と言えるでしょう。アバターは自分のプロフィールなどと一緒に他人から見られるものなので、「変な服装では恥ずかしい」と感じてしまうわけです。それが、「もう少しお洒落をさせてみよう!」「自分の個性を出したい!」という行動に繋がってきます。 「Gゲー」のアバターでもこの点を意識して、画像を大きくし、体の部分も表示するようにするなど、見せる部分を増やす工夫をしています。

このように、"見た目"というものはエモーションを刺激する上で大きなポイントになります。この「見た目」というのは話のきっかけになりやすいですし、見た目を褒められて悪い気分になる人はいないからです。これをサービスという視点で考えた場合、そのサービスを使った結果としてユーザーが何を見せたいと感じるのか、それを考える必要があります。おそらく、誰でも少なからず「何かを伝えたい」という気持ちは持っていることでしょう。そして、今ではそのための手段もたくさんあります。

問題は何を伝えるかということです。サービスを利用した結果として、ユーザーが「これを誰かに見せたらどうなるだろうか?」という意識になるような要素を考えましょう。

スマートフォンならではの事情を意識する

パソコン向けのサービスとは異なる、携帯電話やスマートフォンならではの事情としては、相手とのコミュニケーションの"速度感"を挙げることができます。

メール一つをとっても、パソコンであれば多少返信が遅くてもあまり気になりませんが、携帯電話やスマートフォンではすぐに返信が来ることを期待してしまいます。この速度感を活かして、ある瞬間の状況や感情を「リアルタイム」に見せられるようにすることが重要だと思います。リアルタイム性が高まれば、短い時間で状況が変わっていくことになり、繰り返し何度も利用してもらえることにつながるというメリットもあります。

生活への密着度が高いという点も、パソコンとの大きな違いです。生活に密着しているということは、日常の中で起こる様々な感情がぶつけられやすいということを意味しています。それと同時に、「この向こう側には人間がいる」という意識もパソコンより強いものになっています。そのため、先ほど書いたようなエモーションを刺激する手法が有効になってくるわけです。

ただし、感情という要素は、扱い方によっては大きな問題に発展しやすいという性質も持っています。あまり直接的に刺激し、過剰にあおるようなことがないように注意しなければいけません。

まとめ

これまで3回にわたって、より多くのユーザーに使ってもらえるようなサービスを作るためのポイントを取り上げてきました。まず第一歩となるのが、そのサービスで誰に何をしてもらいたいのかという『世界観』を明確にすること。そして、次に重要になるのが以下の3つのポイントを押さえることです。

・「ユーザーを待たせないこと」
・「シンプルで、分かりやすいサービスにすること」
・「コミュニケーションの要素を取り入れること」

この原則を押さえた上で、次回はサービスを展開していく際にどんなことを意識するべきなのかを考えていきたいと思います。

取材日:2012.03.27