2011年12月28日(水)
スマートフォン市場で勝ち残るサービスを作る Vol.1
今回のテーマは『世界観』。サービスに世界観を持たせることの重要性や、携帯電話市場における世界観のとらえ方などを紹介する。
今回のテーマは『世界観』。サービスに世界観を持たせることの重要性や、携帯電話市場における世界観のとらえ方などを紹介する。
記事INDEX
基本的な部分は、シンプルな方が成功しやすい
新しく技術からサービスを作るときに最初にやるべきことは、そのサービスの「世界観」を決めることです。世界観とは、そのサービスを使って誰に何をしてもらうのかということで、この『誰に』と『何を』の組み合わせが、サービスを作る上で一番重要となります。 例えば、簡単な所から言えば、主なユーザーが男性なのか女性なのか、また何歳くらいの人なのか、どんなコミュニティに属しているのか、それによって方向性は大きく変わってきます。
サービスを提供する目的も様々ですが、私は、個人的に大きく3つに分類する事にしています。『使った人に楽しんでもらうためのもの』、『生活をちょっと便利にするためのもの』、あるいは『世の中を大きく変える革新的なもの』です。いろんな目的が考えられますが概ねこれのどれかになると思っています。どれにしても基本的な部分は、できるだけシンプルな方が成功しやすい傾向があると考えています。
世界観と言うのは、全ての根本なので何か迷子になった時には、世界観が正しかったかどうかを振り返るために、ここまで立ち戻る事も大切です。
世界観を作って、サービスに本当に必要なものを見極めた
世界観が確定すると、そのサービスのユースケースが見えてきます。どんなユーザーが、どんな時に利用するのか。写真付きメールであれば、どんなときに写真を撮って送ろうと思うのかを想定することができます。そこから、カメラやメールにどんな付加機能が付いていたら使いやすくなるのかがわかってきます。 また、ここで考える物は、あくまでも付加機能なので、何かしらの理由で難しいようであれば、諦められる部分だという認識はもっておく事が必要です。
そして、同時にマーケティングやマネタイズの方法も自然に見えてきますし、逆にどんな機能が必要ないのかという判断もできるようになります。世界観に合うかどうかを基準に考えることで、サービスを開発するうえでのブレない軸ができるのです。
世界観に合わないことをやろうとすると大抵はうまくいきません。例えば「こういう機能を付けたら別のターゲット層にもうけるかも」という具合に、安易に世界観(ここでは『誰に』の部分)を拡大しようと考えるのは失敗のもとです。世界観というのは、「そのサービスが何のためにこの世に存在するのか」を決めている本質の部分ですから、これが曖昧になると存在意義まで曖昧になってしまいます。世界観というのはすべてを取り除いたとしても最後に残るべきものです。なので、あれもこれもと足し算をするのではなく、そのサービスの世界観にとって本当に必要なものかを見極めることが重要です。
その為にも、最初に説明した世界観が重要になるわけです。
サービスを開発するにあたって、まずは携帯電話の世界観という観点から考えてみましょう。携帯電話は性別や年齢、職業に関係なく幅広い人々に浸透している、極めて万人向けに作られた製品と言えます。この「万人向け」というのが曲者です。万人向けということは、老若男女問わず誰もが使えなければならないということで、情報機器を使い慣れていないような層もターゲットになるということです。そのためには極めてシンプルに、一目で使い方が分かるデザインにしなければなりません。「万人向け」こそが、一番難しい世界観なのです。 失敗すると「万人に使いにくい」と言う誰も幸せにならない物が生み出されます。
とはいえ、世の中には万人向けと言われている製品はたくさんあります。例えばテレビは携帯電話以上に幅広いターゲットを持っています。これだけ幅広い人々に使われるものでありながら、番組を視聴する方法が分からないという話はほとんど聞きません。それは、ほとんどのテレビが「電源を入れて」、「チャンネルを選ぶ」だけで使えるようになっているからです。最近の多機能なテレビでも、そのもっとも基本的な部分の使い方は変わっていません。万人向けであるためには、その当たり前のデザインが必要だからです。
ゲームにも万人向けのジャンルがあります。トランプやオセロなどの定番ゲームです。なぜこれらの定番ゲームが長い間人気を保っているのかというと、誰もがルールを知っていて、新しく学習することなく気軽に始められるからです。すでに世界観ができあがっているからこそ、定番でいられるわけです。
このように、世の中にすでにある程度固まった世界観があって、それを踏襲していることが、万人向けの製品やサービスを成り立たせるうえで不可欠です。これは携帯電話についても例外ではありませんし、今後、スマートフォンのサービスを考えるうえでも重要なポイントとなってきます。
では、万人向けであるための要件は何でしょうか。フィーチャーフォンの話になりますが、どの端末にも必ず通話ボタンと終話ボタンが付いています。以前、終話ボタンのない機種が発売されたこともありましたが、なかなかもって苦労話を当時は良く聞きました。この通話/終話ボタンが無いと、どうやって電話をかけたり、通話を切ったりしたら良いのかが分からなくなってしまう人が多かったのです。
携帯電話の目的は電話をかけることですから、電話のかけ方は使う全ての人がすぐに理解できなくてはいけません。インターネットやメールの使い方が分からない人でも、電話の機能だけは必ず使えるよう、分かりやすく目立つ場所に通話/終話ボタンが設置されているのです。
通話/終話ボタンに代表されるフィーチャーフォンの基本形は、“携帯電話の本質は何か”ということを追求した結果として形成されてきたものだと言えます。この点はテレビの例と同じです。ところが、スマートフォンの時代になって少し事情が変わりました。スマートフォンは通話/終話ボタンが、すぐ見える場所に付いていない形が主流になっています。これはスマートフォンの世界観が、これまでの「電話をする」という本質から形成されてきたフィーチャーフォンの世界観とは違うことを意味しています。
スマートフォンのインタフェースは異論反論があるかと思いますが個人的には、もともと万人向けには作られていません。液晶に表示されたホーム画面から、自分の使いたい機能のアプリを探して実行するという行為は、パソコンの操作に慣れていない人にとってはかなり敷居の高いものと言えます。しかし、スマートフォンの普及が進むにつれ、操作方法に敷居の高さを感じる人々もスマートフォンを入手しているというのが実情です。サービスを提供する側としては、そのようなリテラシーの低いユーザーにも快適に使ってもらえるようにするにはどうしたらいいかを考えなくてはなりません。
少し前までは、スマートフォンのユーザーはパソコンなどの情報機器の扱いにも慣れたアーリアダプターと呼ばれている人達が中心でした。このようなアーリアダプターのユーザーは、使いこなすための努力を惜しまない層ですので、それを前提とした世界観を作っても問題はありませんでした。多少の使いにくさには目を瞑り目新しさに喜んで貰えるので、結果的に新しい機能や使い方を提供することに主眼を置けば良かったのです。
しかし、これからはそうはいきません。パソコンを一切使わない人でもiPhoneやAndroidなどのスマートフォンを持っている時代です。これまでのユーザーのように使うための努力をしてくれるとは限りません。少しでも「使い方が分からない」「使いにくい」と感じたら、すぐに諦めて使わなくなってしまう恐れがあるのです。そのようなユーザー層にも使ってもらえるサービスを作るために、フィーチャーフォン時代のサービス開発のノウハウが大変参考になります。
前述のとおり、フィーチャーフォンは万人向けであることが追求された端末でした。その上でユーザーに使ってもらえるサービスを作るためには、最低限おさえるべき3つのポイントがあることを前編(【第67回】携帯電話向けサービスを生み出してきた人間の視点でスマートフォン市場を読み解く)で紹介させていただきました。
それは、「分かりやすいこと」、「ユーザーを待たせないこと」、「コミュニケーションを取り入れること」です。スマートフォンも、フィーチャーフォンと同じく万人が持つ端末になったことで、今後これらのポイントの重要性がもっと際立ってくると思っています。
次回はこの3つのポイントについて詳しく解説したいと思います。
取材日:2011.11.22
GMOゲームセンター
GMOインターネットグループ株式会社
2010年11月26日、Android端末向けのゲームアプリマーケットである「Gゲー by GMO」のβ版をリリース。スマートフォンの急速な普及が進む中、事業のさらなる強化と事業展開の迅速化を図ることを目的として、2011年6月1日に合弁会社を設立。続々と新規タイトルを世に送り出している。