企業や組織の情報資産を安全に守るためには、情報セキュリティポリシーの策定が不可欠です。情報セキュリティポリシーとは、情報セキュリティに関する方針や行動指針をまとめたものです。
ポリシーを策定し適切に運用すれば、情報セキュリティに対する従業員の意識向上、取引先や顧客からの信頼性の向上、セキュリティインシデントの発生防止など、さまざまなメリットが見込めます。
そこで今回は、情報セキュリティポリシーの内容や運用方法、各企業が策定する例文について解説します。ポリシーの策定を考えている方、もしくはポリシーの運用方法について知りたい方は、ぜひ本記事を最後までご覧ください。
目次
[ 開く ]
[ 閉じる ]
情報セキュリティポリシーとは
情報セキュリティポリシーとは、情報セキュリティに関する方針や行動指針をまとめたものです。企業や組織が情報資産を安全に守るため、情報セキュリティポリシーとして基本方針や情報セキュリティへの対策基準、実施手順などを策定します。
情報セキュリティポリシーの内容は全ての組織で同一ではなく、企業が持つ情報や組織の規模、体制に応じて策定する必要があります。組織の状況を加味して内容を作成することで、情報資産に対して高いセキュリティ効果が見込めるのです。
なお、総務省の「情報セキュリティポリシーの概要と目的」では、情報セキュリティポリシーの定義を「企業や組織において実施する情報セキュリティ対策の方針や行動指針のこと」としています。
【関連記事】情報セキュリティとは|基本の3要素と4つの追加要素・企業が行うべき対策
策定する目的
情報セキュリティポリシーを策定する目的は、企業や組織の情報資産をさまざまな脅威から守ることにあります。情報セキュリティポリシーの導入を通じて、社員や従業員の意識が向上すれば、結果的に情報セキュリティに関する脅威の対策に繋がります。
つまり、情報セキュリティポリシーは社内の限られた従業員だけが認知すれば良いというわけではなく、社内全体でその意識を持つことが大切です。組織の情報資産を共有する全ての従業員が知ることで、初めて情報セキュリティポリシーの目的が果たされます。
基本方針のサンプル
総務省の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」では、中小企業向けの情報セキュリティ基本方針が公開されています。このサンプルを参考にすれば、企業の情報セキュリティポリシーを手軽に策定することが可能です。記載されているサンプルは以下の通りです。
株式会社○○○○(以下、当社)は、お客様からお預かりした/当社の/情報資産を事故・災害・犯罪などの脅威から守り、お客様ならびに社会の信頼に応えるべく、以下の方針に基づき全社で情報セキュリティに取り組みます。
- 経営者の責任
- 社内体制の整備
- 従業員の取組み
- 法令及び契約上の要求事項の遵守
- 違反及び事故への対応
制定日:20○○年○月○日
株式会社○○○○
代表取締役社長 ○○○○
※ 一部省略
サンプルの詳細や概要については、総務省の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」をご確認ください。
情報セキュリティポリシーの内容|3つの基本階層
情報セキュリティポリシーには以下3つの基本階層があります。これらは、総務省の「情報セキュリティポリシーの内容」で定められているものです。以下、「基本方針」「対策基準」「実施手順」の3つの階層をそれぞれ解説します。
基本方針
基本方針には、情報セキュリティに対する組織や企業の基本方針・宣言を記述します。セキュリティ対策における根本的な考えになるため、情報セキュリティポリシーの中でも特に重要な階層です。
また、基本方針は企業のホームページなどに掲載され、第三者がその内容を確認することができることから、「企業の信頼性を保つ」という役割も担います。
対策基準
対策基準には、基本方針を実践するための対策内容を記述します。この対策基準に則り、社内で情報セキュリティに対する取り組みを行います。
例えば、セキュリティ対策ソフトを導入する、従業員の情報リテラシーを向上させるなどの内容が挙げられます。対策基準はあくまで対策する内容までにとどめ、より具体的なアクションについては実施手順で取り決めましょう。
実施手順
実施手順には、実際に情報セキュリティ対策を行う手順やその内容を明確にします。実施手順を基に対策を行うため、わかりやすくて実践しやすい内容が求められます。
▼実施手順に記述する内容の一例
- セキュリティ対策ソフトの具体的な導入方法
- 従業員の情報リテラシーを向上させるための講義内容
- ハードウェアやソフトウェアの管理規定
実施手順では、内容を講じる対象者や用途に応じて手続きを明確にする点がポイントとなります。
情報セキュリティポリシーを策定するメリット
情報セキュリティポリシーを策定することには、さまざまなメリットがあります。企業における情報セキュリティ対策を強化し、リスクを軽減するためにはポリシーの策定が欠かせません。以下、策定する3つのメリットを解説します。
- 情報セキュリティに対する従業員の意識向上
- 取引先や顧客からの信頼性の向上
- セキュリティインシデントの発生防止
各メリットの詳細を見ていきましょう。
情報セキュリティに対する従業員の意識向上
情報セキュリティポリシーを策定すると、従業員は情報セキュリティの重要性をより深く理解し、その意識が高まります。このプロセスを通じて、従業員はセキュリティに関する知識を身につけ、日常業務での安全な行動が促進されます。
例えば、社内研修を通じてセキュリティポリシーの内容を共有し、実践的なセキュリティ対策を徹底するなどが効果的です。
取引先や顧客からの信頼性の向上
明確な情報セキュリティポリシーは、取引先や顧客に対して企業が情報セキュリティを真剣に考えていることを示し、信頼関係の強化に繋がります。特に基本方針は企業のホームページなどで一般公開するため、策定した意図が外部に伝わり、ビジネス上の信頼性に寄与します。
セキュリティインシデントの発生防止
情報セキュリティポリシーの策定は、セキュリティインシデントの発生を未然に防ぐ効果があります。セキュリティインシデントとは、情報漏洩やシステムの不正アクセスなど、セキュリティ上のトラブルのことです。
適切なポリシーに基づいた対策を実施し、高度なセキュリティ環境を構築すれば、これらのリスクを大幅に抑えることができます。
情報セキュリティポリシーを作成する際のポイント
情報セキュリティポリシーは作成時に重要ポイントを押さえることで、企業にとってより効果的なものとなります。作成時の重要ポイントは以下の通りです。
- 保護する情報資産を明確にする
- 具体的なポリシーを策定して社内全体に周知する
- 適用対象者の範囲を決める
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
保護する情報資産を明確にする
ポリシー策定の初歩として、保護する情報資産を明確に特定することが大切です。これには、顧客データや財務情報、社内の機密情報などが含まれます。
保護すべき資産を特定することで、対象範囲が明確となり、セキュリティ対策を適切に実施できるようになります。例えば、重要な情報が含まれるデータベースの特定や、機密性の高い書類の管理方法などが挙げられます。
具体的なポリシーを策定して社内全体に周知する
2つ目のポイントは、具体的なポリシーを策定して社内全体に周知することです。一部の従業員だけが認知するのではなく、その具体的なポリシーを全体に共有することで、より高度なセキュリティ環境を構築できます。
▼情報セキュリティポリシーの主な共有方法
- 定期的に社内ミーティングを行う
- 情報セキュリティに関する社内研修を開く
これらの手段でパスワード管理やデータの取り扱い方法、セキュリティ違反の報告手順などを共有すれば、業務手順がブラックボックス化することなく、社内全体で業務の統一化を図れます。
適用対象者の範囲を決める
ポリシーの適用対象者とその範囲を明確にすることは、ポリシーの有効性を高めるために重要です。適用対象者には、全従業員や協力会社、ときには顧客が含まれる場合もあります。
例えば、全従業員に対して同じセキュリティ基準を適用する場合や、特定の部門に特化したポリシーを適用する場合など、状況に応じて範囲を設定します。対象者の範囲設定は、ポリシーの効果を決定づけるものなので慎重に行いましょう。
情報セキュリティポリシーの運用方法
情報セキュリティポリシーの効果的な運用には、継続的な管理と改善が不可欠です。特に以下のような点に注意して運用することが推奨されます。
【運用する上での重要点】
重要点 | 内容 |
---|---|
定期的なレビューと評価 | 情報セキュリティポリシーは一度策定した後も定期的にその効果と適切性をレビューし、必要に応じて改善を加える必要があります。セキュリティ環境の変化や新たな脅威への対応を考慮に入れ、年に1度など決められた頻度でレビューを行います。 |
改善策の実施 | レビューで特定された課題に対して、具体的な改善策を策定して実施します。これには、技術的な対策の導入、従業員の教育プログラムの強化、通信プロトコルの見直しなどが含まれます。 |
PDCAサイクルの適用 | 情報セキュリティポリシーの運用は、PDCAサイクルに基づいて行われるべきです。計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、行動(Action)の各フェーズを通じて、ポリシーを継続的に更新します。 |
情報セキュリティポリシーの運用は、組織のセキュリティレベルを向上させるために重要な役割を果たします。定期的なレビューと改善、PDCAサイクルの適用により、ポリシーを効果的に運用し、組織のセキュリティ対策を強化することが大切です。
情報セキュリティポリシーの例文
最後に、情報セキュリティポリシーの例文を3つ紹介します。企業が策定したポリシーを確認することで、そのイメージがより明確になるはずです。
GMOインターネットグループ株式会社
GMOインターネットグループ株式会社では、「情報セキュリティへの取り組み」で情報セキュリティポリシーを公開しています。このページでは「ISO27001認証取得について」から始まり、「認証取得情報」や「情報セキュリティ基本方針」まで掲載しています。
【ISO27001認証取得について】
GMOインターネットグループ株式会社は、企業向けクラウドサービスにおいて、情報資産をさまざまな脅威から守り、リスクを軽減させるため、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)を構築し、国際標準規格であるISO27001 の認証取得をしております。
【情報セキュリティ基本方針】
基本理念
GMOインターネットグループ株式会社(以下、「当社」)は、お預かりするお客様の情報資産及び当社の事業遂行にかかわる情報資産について、厳正に保護することを社会的責任と認識し、これを守るために社内に情報セキュリティマネジメントシステムを確立し、運用し、見直し、維持及び改善します。
方針
- 情報セキュリティの目的
- 準拠法等
- 維持管理体制
- 情報セキュリティの教育、訓練及び意識向上
- 定期的な見直しと継続的な改善
制定日:2017年1月1日
GMOインターネットグループ株式会社
グループ副社長執行役員 山下 浩史
※一部省略
詳しい内容については、GMOインターネットグループ株式会社の「情報セキュリティへの取り組み」をご確認ください。
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社では「情報セキュリティポリシー」のページで、情報セキュリティポリシーの概要と運用・対象・附則が掲載されています。掲載されている主な内容は以下の通りです。
【情報セキュリティポリシー】
ソフトバンク株式会社(以下「当社」)は、情報漏えいリスクに対し抜本的、かつ高度な対策を講じることにより、お客さまをはじめ社会からの信頼を常に得られるよう、「情報セキュリティポリシー」を策定しました。
【情報セキュリティポリシーの運用】
- 情報セキュリティ管理体制の構築
- 「最高情報セキュリティ責任者」の配置
- 情報セキュリティに関する内部規程の整備
- 監査体制の整備・充実
- 情報セキュリティ対策を徹底したシステムの実現
- 情報セキュリティリテラシーの向上
- 業務委託先の管理体制強化
【情報セキュリティポリシーの対象】
当ポリシーが対象とする「情報資産」とは、当社の企業活動において入手および知り得た情報ならびに当社が業務上保有する全ての情報とし、この情報資産の取り扱いおよび管理に携わる当社の「役員、社員、派遣社員等」および当社の情報資産を取り扱う「業務委託先およびその従業員」が順守することとします。
【附則】
この情報セキュリティポリシーは、2006年12月25日から施行します。
※一部省略
詳しい内容については、ソフトバンク株式会社の「情報セキュリティポリシー」をご確認ください。
KDDI株式会社
KDDI株式会社では「セキュリティポリシー」として、その内容を11項目に分けて掲載されています。区分されている項目は以下の通りです。
- 目的
- セキュリティポリシーなどの公開
- 適用範囲
- 情報セキュリティ管理体制
- 情報セキュリティ対策の実施
- 情報セキュリティに関する社内規定の整備
- 情報セキュリティ教育の実施
- 適切な業務委託先管理の実施
- 法令などの遵守
- 情報セキュリティ内部監査の実施
- 継続的改善の実施
各項目の詳しい内容については、KDDI株式会社の「セキュリティポリシー」をご確認ください。
まとめ
本記事では、情報セキュリティポリシーの内容や運用方法、各企業が策定する例文について解説しました。
情報セキュリティポリシーは「基本方針」「対策基準」「実施手順」の3つの階層に分けられ、それぞれ策定する内容が異なります。企業に適したポリシーを策定すれば、情報セキュリティに対する従業員の意識向上や取引先・顧客からの信頼性向上など、複数のメリットが見込めます。
情報セキュリティポリシーの効果的な運用には、継続的な管理と改善が不可欠です。これから企業のポリシーを策定する方は、本記事で紹介した運用方法や企業の例文を参考にしてください。
文責:GMOインターネットグループ株式会社