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社内レポート

2012年6月20日(水)

スマートフォン市場で勝ち残るサービスを作る Vol.4

サービスを拡張する上で重要なのはスタートとゴールを明確にすること

GMOゲームセンター株式会社で取締役副社長を務める木村貢大による、GMO最新ネット業界レポートシリーズ「スマートフォン編」。長年にわたり携帯電話向けミドルウェアやサービスの開発に従事してきた木村が、独自の視点からスマートフォン市場で勝ち残るためのポイントを解説する。

スマートフォン向けのサービスを立ち上げて、ある程度の数のユーザーを獲得できるようになったら、次にそこに新機能の追加などサービスを拡張していく時期が訪れる。しかし、ただ闇雲に新機能を追加すればいいというものではない。今回は、サービスの拡張を考えた時に、どのように展開していけばいいのか?を取り上げる。

記事INDEX

サービス機能の“円形展開“は、目的が曖昧になりやすい

携帯電話やスマートフォンのサービスについて考える時に忘れてはいけないのは、決してユーザーが"使うための努力"をしてくれるとは限らないということです。

そのサービスがどういうことを目的としており、どういう使い方を想定して作られているのかということを明確に示さなければ、ユーザーは何をどう使っていいのか分からなくなり、興味を失ってしまう可能性があります。そのことは「【第71回】スマートフォン市場で勝ち残るサービスを作る-Vol.1-」でも説明しました。

サービスを拡張していく上でもこのことを強く意識する必要があります。拡張するのはいいのですが、安易に行ったのでは、そのサービスが何を目的としたものなのかが曖昧になる恐れがあります。失敗しやすいパターンの例としては、「図1」に示すような「円形の展開」が挙げられます。

<b>図1. 円形展開のイメージ</b>
図1. 円形展開のイメージ

サービスには必ずコアになる部分があります。前回までの記事で取り上げた3つのポイントをおさえて作った最初のサービスを「図1-A」とします。ここに、関連するいくつかの新サービスを追加して拡張してみたのが「図-B」です。

例えば、アルバムサービスであれば、印刷や他のユーザーとの共有、プリクラのような枠柄加工などといった、写真に関連する様々な追加のサービスが考えられます。この段階では、元になっているのがサービスのコア部分なので、追加されたサービス同士も比較的近い目的を持ったものになっているでしょう。

さらに次の段階では、「図1-B」で評判の良かったサービス機能をさらに拡張した新サービスを加えます。それを表したのが「図1-C」です。一見すると多機能で便利になったように思えますが、実はこの状態が危険なのです。

外側にあるサービス同士の関連性が薄くなってくるため、サービス全体の目的が曖昧になりやすいからです。このまま拡張を続けていくと何をするためのサービスだったのかが、どんどん分からなくなっていくでしょう。するとユーザーの目的や欲しい機能も統一性を失っていき、拡張する方向が広がりすぎるという状態に陥ってしまいます。

目的を明確にした"線形"の展開が理想

それでは、円形展開ではなくどのようなイメージでサービスを展開していけばいいのでしょうか。
重要なのは、追加するサービスごとに「スタート地点とゴール地点を明確にすること」です。

全てのサービスには、「なぜそれが必要なのか?」という目的があるはずです。そのサービスを使うことでユーザーにどういう状態になってもらいたいのか、その目的がゴールになります。一方で、スタート地点は、現在大多数のユーザーが利用しているサービスに近いものを設定します。このターゲットとなるユーザーを曖昧にしてしまうと、のちのち誰に利用してもらいたいかが分からなくなります。

こうして必ずスタートとゴールがセットになるように拡張していくと、サービス同士はスタート→ゴール→スタート→ゴールという感じで線形につながるようになります。このような「線形の展開」をイメージした図が「図2」です。

<b>図2. 線形展開のイメージ</b>
図2. 線形展開のイメージ

この形であれば、円形の場合のように目的が分散しないため、ユーザーが次にどのようにサービスを利用していけばいいのかが明らかです。もし追加したサービスの評判が悪くてあまり利用されなかったような場合でも、その理由を分析しやすいため適切な対処を講じることができます。最終的にサービス全体が大規模に成長したとしても、個別のサービスのスタートとゴールが明確で、それぞれが大きく乖離していないのであれば、ユーザーが目的を見失う心配がありません。また、拡張されたサービスも目的のはっきりしたシンプルな物になります。

拡張が進んで最初の目的から方向性がずれてきた場合には、元のサービスから独立させて、単独のサービスとして展開するということも考えられます。スタートとゴールがはっきりしていれば、そのようなサービス単位でのさらなる展開も可能になるのです。円形の展開では、なかなか同じようにはいきません。

ユーザーがどこにいて何を望んでいるのかを把握することも大切

私が手がけているサービスでも、あれもこれもと機能を付けないで、サービスの中身がシンプルになるように心掛けています。そして新しいサービスを追加した場合には、ユーザーの動向を徹底的に分析してゴール地点までたどり着けているのかを確認します。

アクセス履歴や利用状況などの具体的な数字を調べて、いろいろな切り口から分析することが重要です。そうすることで、どれくらいのユーザーがどの辺りの位置にいるのかといったことが分かってくるからです。サービス設計者とユーザーの利用動機と目的が一致しているかどうかがポイントになるため、シンプルに拡張する事により、この分析も非常に分かりやすくなります。

大多数のユーザーがゴール付近までたどり着いてくれれば問題ないのですが、時には「図3」の状態のように途中で止まってしまっているようなケースもあります。つまり、本来ゴールとして設定している利用のされ方に至っていないような状態です。そういう場合には、まずどの辺りに一番多くのユーザーがいるのかを確認した上で、その理由を分析します。もしかしたらユーザーに目的がうまく伝わっていないのかもしれません。そうであれば、うまく誘導する方法を考えます。

また、ユーザーの目指すゴールと開発側が目指すゴールがそもそも異なっているという可能性もあります。そのような場合には、思い切ってゴールを変えてしまうということも考えられます。人が集まっている場所が一ヶ所ではなく、複数に分散してしまうような場合には、そもそもそのサービスに訴求力が無いのかもしれません。ユーザーが何を望んでいるのかをしっかりと把握することが重要です。

<b>図3. ユーザーがどの位置に集まっているのかを分析する</b>
図3. ユーザーがどの位置に集まっているのかを分析する
目的が不透明なサービスを作ってはいけない

単にユーザーが望む機能を足すというだけであれば話はそれほど難しいことではありません。使える機能がたくさんあった方が便利そうに見えることも事実です。しかし、初めてそのサービスに触れた人が、何をしていいのか分からなくなるようでは駄目なのです。サービスを適切に使う、使ってもらうというのも、ユーザー側のコストになります。このコストをいかに低く抑えるかが重要になります。

最初に書いたように、スマートフォンの市場では、そのサービスでユーザーに何をして欲しいのかを分かりやすく提示することが重要だからです。

例えば、アルバムサービスに写真の共有機能を付け加えるのであれば、共有によってユーザーに何を楽しんでもらいたいのかを考えなければいけません。単に「こういう機能があったら良さそうだ」というだけで、目的が不透明なまま新しいサービスを追加するべきではないのです。

あるサービスで人気のあった機能だからといって、他のサービスでも受け入れられるとは限らないという点にも注意しましょう。ユーザーが求めるものはサービスによって異なります。似たような性質のサービスでも、ユーザー側では目的に応じた使い分けをしているかもしれません。

大切なのは、ユーザー側から見たサービスの形と、提供する側が目指すサービスの形を一致させることです。そのためにも、どこをスタート地点にして、どこをゴール地点にすればいいのかをしっかりと確認する必要があるわけです。

いずれにしても、次に何をどのように楽しんで欲しいのかということをできるだけ分かりやすく伝えるように努力しましょう。そのためには、一つひとつのサービスをシンプルに作るという前提も忘れてはいけません。しっかりとした目的を持ってシンプルに作ってあれば、ユーザーとしても選択肢が明確なので、ゴールまでスムーズにたどり着くことができるからです。

今回はスマートフォンのサービスを拡張して展開していく方法を紹介しました。次回は、海外など、これまでとは異なる市場に向けて展開する場合に考えるべきことを取り上げたいと思います。



取材日:2012.05.30